福娘童話集 > きょうの日本昔話 福娘童話集 きょうの日本昔話 童話・昔話・おとぎ話の福娘童話集
 


福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 3月の日本昔話 >本当の母親

3月23日の日本の昔話

ほんとうの母親

本当の母親
大岡越前守の名裁き → 大岡越前の守について

日本語&客家語

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読
【必ず眠れる日本の昔話集5】睡眠導入・作業用 元NHKフリーアナ(大人が眠れる読み聞かせ)

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】

♪音声配信(html5)
音声 スタヂオせんむ

♪音声配信(html5)
音声 ハッサン ハッサンの窓

 むかし、江戸の下町(したまち)に、おしずと、たいちという親子が住んでいました。
 たいちは、今年十才になるかわいい男の子です。
 おしずはたいちを、とてもかわいがって育てていたのです。
 ところがある日、突然、おこまという女の人がやって来て、
「おしずさん、たいちはわたしの息子。
 むかし、あなたにあずけたわたしの息子です。
 返してください!」
と、言うのです。
 おしずは驚いて、
「何を言うのです。
 あなたからあずかった子は、もう十年も前に亡くなったではありませんか。
 この事は、おこまさんだって知っているでしょう」
「いいえ、うそをいってもだめです。
 お前さんは自分の子が死んだのに、わたしの子が死んだと言ってごまかして、わたしの息子をとりあげてしまったんじゃありませんか。
 わたしはだまされませんよ。
 さあ、すぐに返してください!」
 おこまは、怖い顔でそう言いはるのです。
 おしずが、いくら違うと言っても聞きません。
 毎日、毎日、おこまはやって来ては、同じ事をわめきたてて行くのです。
 そしてしまいには、顔に傷のある恐ろしい目つきの男を連れて来て、
「さあ、早く返してくれないと、どんな目にあうかわからないよ!」
と、おどかすのです。
 おしずは困り果てて、町奉行(まちぶぎょう)の大岡越前守(おおおかえちぜんのかみ)に訴えました。
 越前守は話を聞くと、おこま、おしず、たいちの三人を呼びました。
「これ、おこま。
 お前は、そこにいるたいちを自分の息子だと言っているそうだが、何か証拠はあるのか?」
「はい。
 実はこの子が生まれました時、わたしはおちちが出なかったので、おしずさんにあずけたのです。
 この事は、近所の人がみんな知っています。
 誰にでも、お聞きになってください」
 おこまは、自信たっぷりに答えました。
「では、おしずに尋ねる。
 お前は、おこまの子どもをあずかった覚えがあるのか?」
「はい。ございます」
 おしずは、たいちの手をしっかりと握りしめて言いました。
「この子が生まれた時、わたしはおちちがたくさん出ました。
 それで、おこまさんの子どものひこいちをあずかったのです。
 でも、その子はまもなく病気で死んでしまいましたので、すぐにおこまさんに知らせたのでございます」
 おしずの言葉を聞くと、おこまは恐ろしい目で、おしずをキッと、にらんで叫びました。
「このうそつき!
 お奉行(ぶぎょう)さま、おしずは大うそつきです。
 死んだのは、おしずの子です。
 わたしの子どもを、返してください!」
「いいえ、死んだのは、確かにひこいちだったんです。
 お奉行さま、間違いありません。
 おこまの子は、死んだのです」
「まだそんな事を言って! 
 人の子を盗んだくせに!」
「たいちはわたしの子だよ。
 誰にも渡しゃしない。
 わたしの大事な子なんだ!」
 二人はお奉行さまの前である事も忘れて、言い争いました。
 その二人の様子をジッと見つめていた越前守は、やがて、
「二人とも、しずまれっ!」
と、大声で叱りました。
 おこまとおしずは、あわてて恥ずかしそうに座りなおしました。
「おこま。
 その息子がお前の子どもである、確かな証拠はないか?
 たとえば、ほくろがあるとか、きずあとがあるとか。
 そう言う、めじるしになるような物があったら、言うがいい」
 おこまはくやしそうに、首を横に振りました。
「・・・いいえ。それが、何もありません」
「では、おしず。そちはどうじゃ?」
 おしずも残念そうに、首を振りました。
「・・・いいえ。何もございません」
「そうか」
 越前守はうなずいて、
「では、わしが決めてやろう。
 おしずは、たいちの右手をにぎれ。
 おこまは、たいちの左手をにぎるのじゃ。
 そして引っぱりっこをして、勝った方を本当の母親に決めよう。よいな」
「はい」
「はい」
 二人の母親は、たいちの手を片方ずつにぎりました。
「よし、引っぱれ!」
 越前守の合図で、二人はたいちの手を力一杯引っぱりました。
「いたい! いたい!」
 小さいたいちは、両方からグイグイ引っぱられて、悲鳴をあげて泣き出しました。
 その時、ハッと手を離したのは、おしずでした。
 おこまはグイッと、たいちを引き寄せて、
「勝った! 勝った!」
と、大喜びです。
 それを見て、おしずはワーッと泣き出してしまいました。
 それまで、黙って様子を見ていた越前守は、
「おしず。お前は負けるとわかっていて、なぜ手を離したのじゃ?」
と、尋ねました。
「・・・はい」
 おしずは、泣きながら答えました。
「たいちが、あんなに痛がって泣いているのを見ては、かわいそうで手を離さないではいられませんでした。
 ・・・お奉行さま。
 どうぞおこまさんに、たいちをいつまでもかわいがって、幸せにしてやるようにおっしゃってくださいまし」
「うむ、そうか」
 越前守はやさしい目でうなずいてから、静かな声でおこまに言いました。
「おこま、今のおしずの言葉を聞いたか?」
「はいはい、聞きました。
 もちろん、この子はわたしの子なのですから、おしずさんに言われるまでもありません。
 うーんと、かわいがってやりますとも。
 それにわたしは人の息子をとりあげて、自分の子だなんていう大うそつきとは違いますからね。
 だいたい、おしずさんは・・・」
「だまれ! おこま!」
 越前守は、突然きびしい声で言いました。
「お前には、痛がって泣いているたいちの声が聞こえなかったのか!
 ただ勝てばいいと思って、子どもの事などかまわずに手を引っぱったお前が、本当の親であるはずがない!
 かわいそうで手を離したおしずこそ、たいちの本当の親じゃ。
 どうだ、おこま!」
 越前守の言葉に、おこまはまっ青になってガックリと手をつきました。
「申し訳ございません!」
 おこまは、自分がたいちを横取りしようとした事を白状しました。
「お母さん!」
「たいち!」
 たいちは、おしずの胸に飛び込みました。
「お奉行さま、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
 おしずは越前守をおがむようにして、お礼を言いました。
「うむ、これにて、一件落着!」

おしまい

前のページへ戻る


     3月23日の豆知識

366日への旅
きょうの記念日
世界気象の日
きょうの誕生花
ヒマラヤ雪の下(ヒマラヤゆきのした)
きょうの誕生日・出来事
1967年 七瀬なつみ (女優)
恋の誕生日占い
並外れた行動力で、みんなをぐいぐい引っ張ります
なぞなぞ小学校
切られたのに、自分じゃなくて相手を泣かせる物は?
あこがれの職業紹介
メイクセラピスト
恋の魔法とおまじない 083
手紙で相手を安心させるおまじない
  3月23日の童話・昔話

福娘童話集
きょうの日本昔話
本当の母親
きょうの世界昔話
おじいさんと孫
きょうの日本民話
スズメとキツツキ
きょうのイソップ童話
サヨナドリとツバメ
きょうの江戸小話
やぶ先生のぐち
きょうの百物語
亭主を殺されたメスのオシドリ

福娘のサイト

http://hukumusume.com

366日への旅
毎日の記念日などを紹介
福娘童話集
日本最大の童話・昔話集
さくら SAKURA
女の子向け職業紹介など
なぞなぞ小学校
小学生向けなぞなぞ