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3月15日の日本民話 2
竜女おすわ
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むかし、島原(しまばら)のご城下に、杏庵(きょうあん)という若い医者がいました。
杏庵は大変な親孝行で、母親と二人きりで暮しています。
ある日の事、杏庵が薬草をとりに霊仙岳(うんぜんだけ)のふもとの諏訪(すわ)の池に出かけると、五、六人のイタズラ小僧が、一匹の大きな白ヘビをいじめていました。
「これ、何をする! 竜の化身だと言われる白ヘビに乱暴するとは何事だ!」
杏庵はイタズラ小僧を追い払って、白ヘビを池の中へ逃がしてやりました。
それから数日後の雨の夜、一人の若い娘が、びしょぬれになって杏庵の家ののき下に立っていました。
杏庵はその娘を家に入れると、事情を聞きました。
すると娘はシクシク泣きながら、
「長い旅の途中、足にケガをしてしまいました。傷の手当てをしていただけないでしょうか?」
と、言うのです。
杏庵はさっそく傷の手当てをしてやりましたが、娘はすっかり弱り切っていました。
そこで杏庵は母親に相談して、足の傷が治るまで家に泊めてやることにしました。
それから、半月ばかりがすぎました。
娘はすっかり元気を取り戻し、足の傷も治りました。
娘は長庵と母親に頭を下げると、
「すっかり、お世話になりました。おかげさまで、こんなに元気になりました。このご恩は一生わすれません。今は薬代を持ち合わせませんが、でも必ずお返しにあがります。わたしの名は、おすわと申します」
と、言って、どこかへ帰って行きました。
その後、杏庵は急な病気で寝込んでしまいました。
母親は必死の看病(かんびょう)しますが、少しもよくなりません。
毎日の看病で、母親もすっかり疲れ果ててしまいました。
そこへ、おすわがたずねてきたのです。
おすわが母親に代わって杏庵の看病をしますと、杏庵の病気は急によくなりました。
「あなたはわたしの命の恩人です。よければ、このまま家にいてくだされ。そしてわたしの妻になってくだされ」
「・・・はい、わたくしでよろしければ」
こうして二人は結婚して、男の子が生まれました。
その子は、幸太郎(こうたろう)と名づけられました。
さて、ある夏の暑い日の事です。
杏庵が外から戻って来ると、何ととぐろを巻いた竜(りゅう)が幸太郎におっぱいを飲ませていたのです。
「はっ! あなた」
竜はすぐにおすわの姿に戻りましたが、すでに竜の姿を見られた後でした。
「わたくしは、あなたに助けていただいた白ヘビです。本当の姿を見られては、もう一緒に暮らすことは出来ません。幸太朗を、よろしくお願いします」
おすわはそう言うと、幸太郎を残して姿を消しました。
そこされた幸太郎の手には、キラキラ光る玉がにぎられていました。
その夜から諏訪(すわ)の池に地鳴りが続いて、ある日突然、雲仙岳(うんぜんだけ)が大爆発を起こしたのです。
外へ飛び出した杏庵は、大空へ苦しげに飛び去る片目の竜を見ました。
この竜はおすわで、幸太郎がにぎっていた光る玉は竜の片目だという事です。
おしまい
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