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3月15日の世界の昔話

アザラシのお母さん

アザラシのお母さん
デンマークの昔話 → デンマークの国情報

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

制作: ユメの本棚

おりがみをつくろう ( おりがみくらぶ より)
アザラシの折り紙あざらし

 むかしむかし、若い漁師が魚を釣りに海岸に行きました。
 海岸にある大きなほら穴のそばを通りかかると、穴の中から楽しい歌声が聞こえてきます。
「おや? この声は?」
 漁師がほら穴をのぞくと、ほら穴の岩の上にアザラシの毛皮がたくさん並んでいました。
「そうか。アザラシたちが着物を脱いで、穴の中で遊んでいるのだな」
 アザラシの毛皮を町へ持って行けば、とても高い値段で売れます。
 そこで漁師は目の前にあるアザラシの毛皮を一枚盗むと、急いで家に持って帰って箱の中に入れてカギをかけました。

 さて、海で働いた漁師は家へ帰る途中、またあのほら穴のそばを通りました。
 漁師はほら穴の中をのぞきましたが、もうアザラシの毛皮は一枚もありません。
 でも穴の近くで、裸の女の人がシクシクと泣いていたのです。
「もしもし、娘さん。どうしたのですか?」
 女の人は、顔をあげました。
 それは、とても美しい人でした。
 女の人は、恥ずかしそうに目をふせて言いました。
「わたくしは、アザラシなのです。
 今朝早く、みんなと一緒にここに毛皮を脱いで、穴の中で遊んでいました。
 そして帰ろうとすると、わたくしの毛皮だけがありません。
 毛皮がなくては、海に帰れないのです」
 そう言って女の人は、また悲しそうに涙をこぼしました。
 それを聞いて、漁師は迷いました。
(あのアザラシの毛皮は、この娘の物だったのか。
 可愛そうだから、毛皮を返してあげようか。
 ・・・でもそうしたら、この娘は海に帰ってしまう。
 それよりも、あの毛皮を返してやらなければ、このきれいな娘は海に帰れなくなる。
 そうなれば、わたしのお嫁さんになってくれるかもしれない)
 考えた漁師は、やさしく話しかけました。
「それは、お困りでしょう。
 わたしも一緒に探してあげたいけれど、もう暗いから明日にならないと無理です。
 汚い家ですが、今夜はわたしの家にお泊まりなさい」
 女の人は、しばらく考えていましたが、
「それでは、お世話になります」
と、言って立ちあがりました。

 さて、漁師の家に来た女の人はとてもやさしい人で、漁師のためにおいしいごはんを作り、着物を洗濯して家の掃除をしてくれました。
 次の朝、漁師は女の人に言いました。
「わたしは、あなたを海に返したくなくなりました。
 もう海へ帰るのはあきらめて、わたしのお嫁さんになってくれませんか?」
 女の人も、漁師の事が好きになっていたので、
「はい。そうさせていただきます」
と、答えて、漁師のお嫁さんになりました。

 二人は貧乏(びんぼう)でしたが、とても幸せに暮らしました。
 やがて二人の間に子どもが次々と産まれて、女の人は七人の子どもたちのやさしいお母さんになりました。
 けれどもお母さんは時々一人で海辺に行って、悲しそうに沖の方を見つめている事がありました。
 美しい奥さんと可愛い子どもたちに囲まれて、漁師は本当に幸せでしたが、あの毛皮を隠した箱のカギだけは、いつも体から離しませんでした。
(もし妻が毛皮を見つけたら、この幸せな暮らしはお終いだ。
 妻はあの毛皮を見たら、海に帰ってしまうかもしれない。
 そしてわたしがうそをついていた事を、許してはくれないだろう)

 でも何年かたったある日、漁師は大事な箱のカギをうっかり家に置き忘れて海に出かけたのです。
「あら、何のカギでしょう?」
 掃除をしていてカギを見つけたお母さんは、漁師が大切にしている箱の事を思い出しました。
「あの人はあの箱の中に、何を大事にしまってあるのかしら?」
 気になったお母さんは、そのカギで箱を開けました。
 そして中に入っていた、アザラシの毛皮を見つけたのです。
「まあ、これはわたしの毛皮!」
 お母さんはアザラシだった頃の、なつかしい海の生活を思い出しました。
「ああ、これで海に帰れるわ」
 その時、外で遊んでいる子どもたちの楽しそう声が聞こえて来ました。
「どうしましょう? あの子たちを置いて海に帰るくなんて、わたしには出来ないわ。・・・でも」
 お母さんは毛皮を見ているうちに我慢が出来なくなり、ついに毛皮を着てしまいました。

 さて、海で釣りをしていた漁師は、家にカギを忘れた事に気づきました。
「しまった! 誰にも見つからなければいいが!」
 漁師は祈る様な気持ちで、急いで家に帰りました。
「お母さん、帰って来たよ! お母さん? どこにいるんだい?!」
 いつもはすぐに返事が返ってくるのに、今日は返事がありません。
 漁師が箱のところに行ってみると、すでに箱のふたが開いていてアザラシの毛皮がなくなっていました。
「まっ、まさか! お母さんは! お母さんは、どこへ行った?!」
 漁師はまっ青になって、子どもたちに尋ねました。
「さあ、知らないよ」
「ぼくも」
「わたしも知らない」

 夜になっても、次の日になっても、お母さんは帰って来ませんでした。
「お父さん、お母さんはどこへ行ったの?」
「どうして、帰って来ないの?」
「お母さん、早く帰って来て」
 子どもたちも漁師も、お母さんの事を思い出して悲しみました。
 でも、悲しんでばかりはいられません。
 漁師が魚を釣りに行かなければ、子どもたちの食べる物がないのです。
 子どもたちもお母さんの代わりにごはんを作り、お洗濯やお掃除をして漁師を助けました。
 漁師は重い気持ちで、海に出かけました。
 するとどこからか、悲しい歌声が聞こえて来ます。
♪わたしは、アザラシ。
♪海の娘。
♪海に帰れてうれしいけれど。
♪それでもやっぱり、悲しいの。
♪可愛い子どもは、どうしているの?
♪わたしの可愛い、子どもたち。
 一頭のアザラシが、漁師の小舟のまわりを泳ぎました。
 アザラシの目からは、涙がこぼれているようでした。
 子どもたちが海辺で遊んでいると、やさしい顔をした一頭のアザラシがそっと岩かげに近寄って、きれいな魚や珍しい貝を投げてくれる事もありました。
 そして漁師が釣りをしていると、いつもあの悲しい歌声が聞こえました。
♪わたしは、アザラシ。
♪海の娘。
♪海に帰れてうれしいけれど。
♪それでもやっぱり、悲しいの。
♪可愛い子どもは、どうしているの?
♪わたしの可愛い、子どもたち。
 この海では、今までよりも何倍も魚が捕れる様になりました。
 お母さんは帰って来ませんでしたが、漁師はその魚を売って子どもたちを立派に育てたということです。

おしまい

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