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3月18日の日本民話 2
イヌになった男
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毎年八月十四日の晩になると、出雲大社(いずもたいしゃ)の大神(おおがみ)さまが姿を現して、町の中を歩くと言われています。
町の人たちはこの夜を『みねんげさんの夜』と呼んで、どこの家でも夕方になると早めに戸を閉めて眠る事にしていました。
どうして早く戸閉まりをするかと言うと、もしも神さまの姿を見たりすると、とんでもない罰が当たると言われているからです。
さて、むかしむかしのある年の八月十四日に、他の町からやって来た男が友だちの家で、この『みねんげさんの夜』の話を聞きました。
「それはちょうど良い時に来た。おれは一度でいいから、神さまというのはどんな顔をしておるのか見てみたいと思っておったんだ」
そう言って友だちが止めるのも聞かずに、夜になると家から出て行ったのです。
そして道ばたの木のかげに隠れて、神さまの行列が通るのを息をひそめて待っていました。
やがてどこからか、ゆっくりと行列がやって来ました。
神官たちにかつがれた輿(こし)の中にいる神さまは、ふと、闇(やみ)の中から自分に向けられている目がある事に気がつきました。
「これ、あそこの木のかげからのぞいておるのは、誰じゃ?」
おつきの者は辺りを見回しましたが、暗過ぎて人間の目には何も見えません。
「はて。わたしには何も見えませぬが、きっと、のらイヌでござりましょう」
と、答えると、神さまは、
「そうか。イヌか」
と、言った途端、木のかげにかがみ込んで神さまを見ようとしていた男は、たちまちイヌになってしまったという事です。
おしまい
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