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3月22日の日本民話 2
日見(ひみ)のキツネ
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むかしむかし、日見(ひみ)と呼ばれる峠に、イタズラギツネが六匹も住んでいました。
このキツネは人間に化けるのが得意で、村人たちはいつも化かされて困っていました。
ある者は、白い花の咲くソバ畑を川と思わされて、
「川か。着物が濡れるといかんな」
と、ソバ畑をふんどし姿で渡されました。
またある者は、臭い肥だめをお風呂と思わされて、
「ああ、ええ湯じゃ。気持ちいいのう」
と、首までつかったりしたのです。
さて、ある男が峠のキツネ話を聞いて、一つ金もうけをしてやろうと考えました。
そしてキツネの好物の油あげをたくさん持って、峠にやって来ました。
「おーい、キツネ。お前らに食い物を持って来たぞ。早く出て来いや」
男がそう言うと、どこからか六匹のキツネが出て来ました。
「おお、良く来てくれた。
お前たちが、噂の化け上手のキツネか。
実はな、お前たちの化け具合を見たくて、こうして土産を持って来たんだ。
どうじゃ、一つわしに、人間に化けるところを見せてくれんか?」
男が油あげを差し出しながらキツネに頼むと、その中の一番大きなキツネが、
「それなら、一回だけだぞ」
と、他のキツネに合図を送って、あっと言う間に六人の若者に化けたのです。
「おおっ。こりゃ、見事な物だ」
男は手を叩いて喜ぶと、キツネの若者に言いました。
「見事な化け方を見せてくれた礼に、町でうまい物を食わせてやろう。
・・・けど、そうなると男よりも、きれいな女の方が良いな。
お前たち、男に化けるのはうまいが、きれいな女には化けられるか?
・・・まあ、出来ないなら無理にとは言わんが」
それを聞いたキツネは、腹を立てて、
「きれいな女に化けるくらい、簡単な事だ。見とれよ」
と、今度は、美しい女に化けたのです。
「おおっ、見事、見事! こんなにきれいな女は、人間にもおらんぞ」
男は大喜びでキツネたちを連れて、長崎の町にやって来ました。
キツネの化けた六人の女はとても美人で、町の男たちは誰もが見とれてしまいます。
男は丸山の遊郭(ゆうかく)に行くと、キツネが化けた女たちを売り飛ばしてしまいました。
それからキツネに約束のご馳走を食べさせると、自分はたんまりと手に入れたお金を持って帰ってしまったのです。
次の朝、女郎屋(じょろうや)の主人は、六人の部屋をのぞいてびっくり。
何とふとんの上には、大きな六匹のキツネがねまき姿で寝ているのです。
「このいたずらギツネめ! よくも騙したな! 金を返せ!」
主人は家の者を呼ぶと、寝ていたキツネたちに殴りかかりました。
「コン、コン、コーン!」
さんざんに殴られたキツネたちは、悲鳴を上げながら日見の峠へ逃げ帰りました。
そしてこれにこりたのか、このキツネたちは二度と人間を化かす事はなかったそうです。
おしまい
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