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6月10日の日本民話 2
黒瀧寺(くろたきじ)の大蛇 弘法話
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むかしむかし、大龍寺(だいりゅうじ)の山には、二匹の大蛇がいました。
この大蛇が村人を襲い、村人の田畑を荒らすのです。
村人たちがほとほと困っているところへ、旅の途中の弘法大師が通りかかりました。
そして村人たちから大蛇の話を聞いた大師は、大蛇を退治しようと、大蛇が現れるのを待ちました。
やがて二匹の大蛇が現れると、大師は両手を前に合わせて、一心にお経を唱えました。
そのお経に大蛇は苦しみ出し、何とかオスの大蛇を退治出来たのですが、残念な事にメスの大蛇は逃げてしまいました。
「むむっ、取り逃がすとは、わたしもまだまだ未熟。仕返しに村が襲われる前に、メスの大蛇も退治せねば」
こうして大師は休む事なく、逃げ出したメスの大蛇を追って大龍寺山にのぼると、今の黒瀧寺(くろたきじ)の建っているあたりに、まっ黒な雲がヘビのとぐろの様に渦巻いているのを見つけたのです。
「そうか。大蛇はあそこへ逃げておったのか」
大師は那賀川(なかがわ)をさかのぼり、加持窪(かじくぼ)あたりへとやってきました。
そして一晩中探した末に、やっと大蛇を見つけたのです。
大師の姿を見て怒り狂う大蛇に、大師は言いました。
「お前らとて、生きるために村を襲ったのであろう。その事をとがめるつもりはない。だが、これ以上、村に被害をもたらすわけにはいかんのじゃ。許せ」
そして大師は全身全霊を込めて、お経を唱えました。
お経に暴れ苦しむ大蛇。
一心にお経をとなえる大師。
一瞬でも気を緩めれば、大師は大蛇に食べられてしまうでしょう。
両者の戦いは朝まで続きましたが、大師の力がわずかに勝り、何とかメスの大蛇を退治する事が出来たのです。
そして大蛇を退治した大師は、二匹の大蛇の供養の意味も込めて、この山の上に寺を建てたのです。
その寺が、今の黒瀧寺だといわれています。
おしまい
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