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6月16日の日本民話 2
三人の願い事
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むかしむかし、木綿売りが山道を歩いていると、壁塗りと木こりの二人に出会いました。
話しをすると、三人とも仕事がうまく行かずに困っているのです。
「何か、うまい手はないものかね」
木綿売りが言うと、壁塗りが言いました。
「実は、さっきふもとの茶店で聞いたのだが、峠の神さまは、どんな願いでも叶えてくれるそうだ」
「そいつはありがたい。駄目でもともと、さっそく頼んでみよう」
そこで三人が山道を登って行くと、峠に古くて小さなほこらがありました。
さっそく木綿売りが、手を合わせて言いました。
「木綿の手持ちが無くて困っています。どうか、計れば計るほど、木綿が長くなりますように」
続いて壁塗りが、手を合わせて言いました。
「腕が未熟で、塗った壁がすぐに落ちてしまいます。どうか壁を塗ったら、ぴたっとくっつきますように」
最後に、木こりが手を合わせて言いました。
「近頃は年で、木を切るのが大変です。どうかパンと叩くだけで、ポキリと木が折れますように」
さて、峠を下ってどんどん行くうちに、三人ともすっかりくたびれてしまいました。
「どうだね、この辺りで、ひと休みしないか」
木綿売りが、言いました。
「いいとも。ちょうど、ひと休みしたいと思っていたところだ。」
壁塗りと木こりも賛成して、足を止めました。
するとうまいぐあいに、大きな丸太ん棒が転がっています。
三人は丸太ん棒に座って、自分の願い事の事を考えていました。
「神さまは、本当にわしらの願いを叶えてくれるかな」
「ああ、叶えてくれればいいが」
「よし、一つ試してみよう」
木綿売りが、荷物の中から木綿を出して広げました。
すると、どうでしょう。
重ねてあるところを広げるたびに、木綿はどんどん長く伸びていくのです。
「こいつはありがたい。願いが叶ったぞ!」
木綿売りは、どんどん木綿を引っ張りました。
「へえ、こいつは驚いたな。どれ」
壁塗りも木こりも、木綿のはしをつかんで引っ張りました。っぱりました。
そして夢中で引っ張っていると、どこからか一匹のアブが飛んできて、壁塗りのほっぺたにとまりました。
「こいつめ!」
壁塗りは木綿から手を離すと、パチンとほっぺたを叩きました。
するとその途端、手がほっぺたにくっついてしまったのです。
押しても引っ張っても、どうしても手が離れません。
「何だ、何を遊んでいやがる」
見ていた木こりは、おかしくなってお腹を抱えて笑いました。
そして思わず、右手で自分のひざをパンと叩いてしまったのです。
するとポキリという音がして、木こりのひざの骨が折れてしまいました。
「あいてててて!」
木こりは、その場に倒れると、動けなくなりました。
困った事になってしまった二人を見て、木綿売りが言いました。
「お前さんたちには気の毒だが、仕事の約束があるので失礼するよ」
そして木綿売りが木綿をたたもうとしたら、そのたびに木綿が長くなってしまい、どうする事も出来なくなったそうです。
おしまい
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