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6月29日の日本民話 2
金のハト
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むかしむかし、あるところに、太郎と次郎と三郎と言う、三人兄弟がいました。
ある日の事、太郎が山へ薪(たきぎ)を取りに行き、お昼におにぎりを食べていると、どこからともなく白いひげのおじいさんが現れて、
「すまんが、その握り飯を、半分わけてくれないか?」
と、言いました。
しかし太郎が、
「いやじゃ。これはわしの大切な握り飯じゃ!」
と、断ると、おじいさんは仕方なく、どこかへと行ってしまいました。
そしておにぎりを食べ終えた太郎が、また薪取りを始めると、運悪く木の下のくぼみに落ちて怪我をしてしまいました。
そして太郎は、泣きながら家へと帰りました。
さて次の日、今度は次郎が山へ薪を取りに出かけました。
そしてお昼になって、おにぎりを食べていたら、あの白いひげのおじいさんがどこからともなく現れて、
「すまんが、その握り飯を、半分わけてくれないか?」
と、言ったのです。
しかし次郎も、
「いやじゃ。これはわしの大切な握り飯じゃ!」
と、分けてやらなかったのです。
おじいさんは仕方なく、どこかへと行ってしまいました。
そしておにぎりを食べ終えた次郎が、また薪取りを始めると、運悪く自分のナタで自分の足を切ってしまったのです。
次郎は、泣きながら家へと帰りました。
さて次の日、今度は三郎が山へ薪を取りに出かけました。
やはりお昼になって、おにぎりを食べていたら、あの白いひげのおじいさんがどこからともなく現れて、
「すまんが、その握り飯を、半分わけてくれないか?」
と、言ったのです。
そこで三郎は、おにぎりを半分に割ると、
「はい。半分こ」
と、おじいさんにおにぎりを分けてあげました。
おじいさんは半分のおにぎりをおいしそうに食べると、
「ああ、うまかった。これは、お礼だ」
と、懐から金のハトを取り出して、三郎にくれたのです。
「ありがとう。おじいさん」
喜んだ三郎は、薪取りの続きをすませると、金のハトと薪を持って家に帰ろうとしましたが、いつの間にか日が暮れてしまったのです。
「困ったな。どこかに夜を明かす所はないかな?」
三郎がキョロキョロしながら暗い山道を歩いていると、道の向こうに見たこともない立派なお城があったのです。
三郎はお城の門番に事情を話して、そのお城に泊めてもらうことになりました。
そして三郎がお風呂に入っている間に、布団の用意をしにきた女中が、床の間にいる三郎のきれいな金のハトを見つけて、
「あら、きれいなハト」
と、さわった瞬間、女中の手はハトにくっついて取れなくなってしまいました。
女中は慌ててもう一方の手を添えますが、その手もハトにくっついて取れません。
今度は足をかけて手を引っ張ろうとしましたが、その足もハトにくっついてしまいました。
「誰か! 誰か助けてー!」
この騒ぎを聞きつけて多くの人がやって来ましたが、女中を助けようとして女中に手をかけると、その人も女中にくっついてしまったのです。
こうして次々と人がくっついてしまい、お城は大騒ぎになりました。
さて、このお城の殿さまには、とても美しいお姫さまがいました。
しかしこのお姫さま、生まれて一度も笑った事がないのです。
そのお姫さまが、この騒ぎを聞きつけてやって来たのです。
「姫さま、お助け下さい」
お女中がなさけない声で訴えるので、お姫さまはつい、女中に手をかけました。
するとお姫さまもくっついてしまい、離れる事が出来ません。
みんなが困っていると、ちょうどお風呂からあがってきた三郎が、この光景を見てつい、
「くすっ」
と、笑ってしまったのです。
するとそれにつられて、今まで笑ったことがないお姫さまが、
「くすっ、くすくす」
と、笑い出したのです。
そして二人の笑いを聞いて、くっついていた人たちも、
「あはははははは」
「おほほほほほほ」
「えへへへへへへ」
と、次から次へと笑い出したのです。
するとそれにつられて、金のハトも、
「ホー、ホホホホ」
と、笑い出しました。
するとハトにくっついていた女中の手が離れ、女中にくっついていた家来たちの手も離れ、そして家来たちにくっついていたお姫さまの手も離れてしまいました。
そしてみんなが離れると、みんなは笑いが止まらず、それからも大笑いを始めました。
そしてこれを知ったお殿さまは、お姫さまが初めて笑った事に大変喜んで、
「今まで姫に遠慮して、この城では声を出して笑う者がいなかったが、笑うとは、こんなにも楽しい事だったのだな。これからも、ぜひ姫と一緒にいて、この城を明るく楽しいものにしてほしい」
と、何と三郎を姫の婿に迎えたのです。
おかげで三郎は、いつまでも幸せに暮らしたと言うことです。
おしまい
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