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12月12日の日本民話 2
水のない村
鹿児島県川辺長の民話 → 鹿児島県の情報
むかし、旅の途中の弘法大師が、水をめぐんでもらおうと百姓家に声をかけました。
「旅の僧ですが、水をめぐんでは下さらんだろうか」
「・・・・・・」
人の気配はありますが、返事がありません。
大師が戸の隙間から中をのぞいてみると、一人の若い娘が機をおっているところでした。
「もし、娘さん。水を一杯めぐんでは下さらんだろうか」
しかし娘は振り向きもせずに、邪魔くさそうに言いました。
「ふん。あんたにやるような水はないよ」
「そこを何とか。ほれ、そこの土間の桶の水を、たったひとすくいでよいのです」
「うるさいねえ! あたしはすぐにのどが渇くから、この水が全部必要なんだよ。さあ、とっとと出て行きな!」
すると大師は、おだやかな声で言いました。
「そうですか。
ならば、あきらめましょう。
・・・ただ、娘さんに一つ忠告しておこう。
さっきあんたはすぐにのどが渇くと言ったが、それはあんたの心が悪い病気にかかっておるせいだ。
すぐに心を改めないと、仏の罰を受ける事になるかもしれんぞ」
すると若い娘は、キッ!と大師をにらみつけて言いました。
「何が仏の罰だ! 馬鹿馬鹿しい。そんな物が本当にあるのなら、仏に仕えるあんたが見せてみろ!」
「・・・やれやれ」
あきれた大師は、娘を連れて近くの川へ行きました。
そして自分の持っていた錫杖(しゃくじょう)を地面に突き刺してお経のような物を唱えると、地面に突き刺した錫杖をポンと抜き取って、そのままどこかへ行ってしまいました。
「はん! 何だい? これが仏の罰なのかい? 小さな穴をあけただけじゃないか。馬鹿馬鹿しい」
娘がそう言うと、不思議な事に川の水が流れを変えて、錫杖の小さな穴の中へどんどん吸込まれていくではありませんか。
やがて川から水が無くなり、この娘は一生水に困る事になりました。
おしまい
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