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12月13日の日本民話 2
名主地蔵さま
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これは、千葉県南房総市の西方寺に伝わるお話です。
むかし、江戸から領主のお姫さまが、船でやって来ることになりました。
大勢の役人や村役が浜で待っていると、やがてお姫さまの乗った船が沖の方に見えて来ました。
「おお、やって来たぞ」
「今日は波が穏やかで良かった。・・・おや?」
すると今まで穏やかだった海が、急に荒れ出したのです。
「ああ、大変だ!」
「このままでは船が、船が沈んでしまうぞ!」
そして海は大荒れに荒れて、お姫さまの乗った船は大波の間に消えてしまいました。
それから数日後、ある浜にお姫さまの持ち物や衣服などが、砕けた船の木ぎれと一緒に流れ着きました。
それらが流れ着いた村は貧しかったので、村人たちは流れ着いた物をこっそり山分けして、証拠となる木片は埋めたり燃やしたりしたのです。
さて、何かが流れ着いたとの噂を聞いた役人たちが、この浜へやって来ました。
ですが浜はきれいに片付けられていたので、手がかりは何一つありませんでした。
「おかしい。確かに、船の残骸が流れ着いたと聞いたのだが?」
そこで村人たちに尋ねてみましたが。
「はあ。浜は、いつもと変わりございませんが」
「気になる物は、何も流れ着きませんでした」
と、答えるばかりです。
「・・・そうか。あのうわさは間違えであったか」
「うむ、帰るとするか」
「その前に、小便を」
役人の一人が少し離れた所に行くと、立ち小便を始めました。
するとそれを見た村の子どもが、こんな事を言ったのです。
「お役人さまが、お姫さまの物を隠した所に小便しよる」
「なに!」
それを聞いた役人たちは、すぐにその場を掘らせました。
すると地面の中から、お姫さまが乗っていた船の木ぎれなどがたくさん出て来たのです。
「ぬぬっ! さては村人全員で我々をだまそうとしたな!」
「許せん!」
そこで役人たちは村人全員を縄でしばりあげると、代官所へと連れて行ったのです。
やがてその話を聞いた村の代表である名主が、馬で代官所に駆け付けました。
そして村人たちの命を救うために、名主はこう言ったのです。
「申し訳ございません! すべては私一人のやった事で、村の者には非はありません。おとがめは、私一人がお受け致します」
こうして嘘の罪を白状した名主は、全ての罪を一人で引き受けて役人に首を切られたのです。
「なっ、名主さま・・・」
「わしらの為に・・・」
村人たちは名主の供養のために、西方寺に地蔵をまつりました。
その地蔵は村人たちを救った名主の勇気を忘れないために、『名主地蔵』と名付けられたそうです。
おしまい
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