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4月3日の世界の昔話
イラスト 和穗かなた 運営サイト ここあ
ラプンツェル
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読
【大人も眠れる睡眠朗読】世界昔話の特集 元NHKフリーアナ(絵本 読み聞かせ)
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むかしむかし、あるところに、子どものいない夫婦がいました。
夫婦は毎日、神さまにお願いします。
「神さま、どうかわたしたちに、子どもをおさずけください」
そんなある日、二人の願いが神さまに届いて、奥さんに赤ちゃんがやどったのです。
「神さま、ありがとうございました!」
奥さんのお腹の赤ちゃんはすくすくと育ち、あとは生まれるのを待つばかりです。
さて、この夫婦の家のとなりには、大きくてきれいな庭の家があります。
この家の持ち主は、ゴテルとよばれる魔女です。
村人たちは魔女がおそろしくて、誰一人この家に近寄ろうとはしませんでした。
その魔女が、奥さんのお腹に赤ちゃんがやどった事に気づいたのです。
魔女は庭に出ると、庭の畑で育てているレタスに魔法をかけました。
「レタスたちよ、あの身ごもった女を誘惑(ゆうわく)するのだ。あの女がお前たちを、どうしても食べたくなるようにね」
すると魔法をかけられたレタスは、あわい光りを放つようになりました。
ある日、お腹の大きくなった奥さんが、ふと、家の窓から魔女の庭をのぞきました。
魔女の家の庭には美しい花畑や野菜畑があり、その野菜畑に植えられたレタスを見た奥さんは、たちまちレタスに心をうばわれました。
「あのレタス、なんておいしそうなんでしょう」
奥さんはそのレタスが、とても食べたくなりました。
でも、そのレタスは魔女の物なので、勝手に食べたりしたらどんな事をされるかわかりません。
「だめよ。あれは魔女のレタスなのだから」
奥さんは自分に言い聞かせると、ぐっとがまんしました。
でも、レタスの魔法にかかってしまった奥さんには、もうレタス以外の食べ物は考えられませんでした。
奥さんはその日から食事をやめて、どんどんやせていきました。
それに気づいた夫が、奥さんにたずねます。
「お前、どうして何も食べないんだ?
この家には、パンでも肉でもたくさんあるのに。
何も食べないでは、お前にもお腹の赤ん坊にもよくないよ」
すると奥さんは、はずかしそうに答えました。
「ええ、実はレタスがどうしても食べたいの」
「なんだ、そんな事か。それなら、すぐに買ってきてやるよ」
夫はすぐに町へ行くと、奥さんのためにレタスを山のように買ってきました。
しかし奥さんは、そのレタスを食べようとはしません。
「ちがうの。あたしがどうしても食べたいレタスは、あのレタスなの」
奥さんはそう言って魔女の野菜畑にある、あわい光を放つレタスを指さしました。
「何だって! そんな事を言ったって、あのレタスは魔女の物だぞ」
「ええ、わかっているわ。でも、どうしてもあのレタスが食べたいの」
「しかし・・・」
このまま奥さんが何も食べなければ、奥さんもお腹にいる赤ちゃんも死んでしまいます。
「・・・わかった。何とかするよ」
夫は決心するとその日の夜、魔女の庭に忍び込みました。
魔女の庭に忍び込んだ夫は、魔女の野菜畑からあわい光を放つレタスの葉っぱを一枚盗み取ると、それを奥さんに食べさせました。
するとレタスを食べた奥さんの青白い顔に、ぽっと赤みがもどりました。
「ああっ、なんておいしいのかしら」
その日から夫は毎晩魔女の庭に忍び込むと、レタスの葉っぱを盗み取りました。
そんなある日、夫がレタスの葉っぱを盗み取っているのを、魔女に見つかってしまったのです。
魔女は恐ろしい目で、夫をにらみつけました。
「わたしの大切なレタスを盗んでいたのは、お前か! このまま、生きて帰れると思うな!」
すると夫は、魔女に手を合わせてあやまりました。
「お許しください!
実はわたしの妻が、魔女さまのレタスしか口にしないのです。
これを食べないと、妻もお腹の赤ん坊も死んでしまいます」
すると魔女が急に態度を変えて、にっこり笑いました。
「そうかい。
それは、大変だったね。
それならいくらでも好きなだけ、奥さんにレタスを食べさせてあげるといいよ」
「ほっ、ほんとうですか? ありがとうございます!」
魔女の言葉に、夫は大喜びです。
しかし魔女は、ニヤリと笑うとこんな事を言いました。
「ただし、お前の奥さんが無事に赤ん坊を産んだら、その子をわたしに差し出すんだ。
このわたしが本当の母親のようにかわいがって、その子を育ててやるよ」
「えっ?!
そっ、そんな事は。
子どもは、わたしたちの念願だったのです。
いくら何でも、レタスの代わりに子どもをやるわけには」
「そうかい。
なら、レタスはあげないよ。
お前の奥さんもお腹の赤ん坊も、そのまま飢え死にすればいい」
「そんな・・・」
魔女のレタスが手に入らなければ、奥さんとお腹の赤ちゃんは死んでしまいます。
夫は二人に死なれるよりも、せめて奥さんには生きて欲しいと思い、仕方なく魔女と約束しました。
「・・・わかりました。
このままでは、妻とお腹の赤ん坊は死んでしまいます。
生まれた子どもはあなたに差し上げますから、どうかレタスを分けてください」
「ああ、それがいいよ。
なあに、心配する事はない。
子どもはわたしが、ちゃんと育ててやるからね」
やがて夫婦に可愛い女の赤ちゃんが生まれましたが、
すぐに魔女がやってきて連れて帰りました。
魔女はその赤ちゃんに、野生のレタスという意味の『ラプンツェル』と名付けました。
魔女に育てられたラプンツェルは、この世界に二人といないほど美しい娘に育ちました。
ラプンツェルが十二歳になると、魔女はふと考えました。
「これだけ美人だと、わたしの可愛いラプンツェルに悪い男どもが目をつけるかもしれないね」
そこで魔女は森の奥に入り口のない高い塔を作ると、その塔の上の部屋にラプンツェルを閉じこめる事にしたのです。
「これでよし。これでラプンツェルは、わたしだけのものさ」
この塔には入り口がないので、いくら魔女でも中に入る事が出来ません。
そこで魔女はラプンツェルに会いに行く時、塔の下からラプンツェルに大きな声で言うのです。
「ラプンツェル! ラプンツェル!
お前の美しい髪を、たらしておくれ!」
するとラプンツェルは黄金を細長く引きのばして作ったような、長くて美しい金髪を塔の下にのばします。
魔女はそのラプンツェルの長い金髪をのぼって、ラプンツェルに会いに行くのです。
ラプンツェルが塔の上で暮らすようになってから、三年目のある日。
この国の王子が、馬に乗って森を通りかかりました。
「まったく、父上にも困ったものだ。
ぼくの顔を見るたびに、はやく結婚しろと言うのだからな。
そんなにあわてなくても、きっと運命の出会いがあるさ」
お城にいると父親である王さまに結婚の事ばかり言われるので、王子は逃げるように森へ散歩に来たのです。
森を進むにつれて、辺りが薄暗くなってきました。
「そう言えば、この森には魔女が住んでいるそうだ。気をつけないとな」
その時、王子は森の奥から、天使のような美しい歌声を聞いたのです。
♪ラララー、ララララーー
♪ラララー、ララララーー
「なんて美しい歌声だろう」
王子は歌声を頼りに森の奥へ入っていき、塔の上に閉じこめられているラプンツェルを見つけました。
美しい歌声は、ラプンツェルが塔の上から歌っていたものです。
王子はラプンツェルの美しさと歌声に、心をうばわれました。
「あの女の人こそ、わたしの運命の人に違いない」
ラプンツェルに一目ぼれをした王子は、ラプンツェルのいる塔の下にやって来ました。
しかしこの塔には、どこを探しても入り口がありません。
「こんな塔を作るのは、きっと魔女にちがいない」
するとそこへ、魔女が食べ物を持ってやって来ました。
王子は魔女に見つからないよう、すぐに隠れました。
魔女は王子が隠れているとも知らず、いつものように塔の上のラプンツェルに呼びかけます。
「ラプンツェル! ラプンツェル!
お前の美しい髪を、たらしておくれ!」
それを聞いたラプンツェルがあんだ髪の毛を下にたらすと、魔女はそれを伝って塔の上に登って行きます。
これを見た王子は、魔女が帰ると塔の下に行って言いました。
「ラプンツェル! ラプンツェル!
お前の美しい髪を、たらしておくれ!」
すると塔の上からラプンツェルの髪の毛がおりてきたので、王子はその髪の毛を伝って塔の上へ登って行きました。
「おばあさん、何かお忘れ物ですか?」
そう言ったラプンツェルは、登ってきたのが王子だったのでびっくりです。
「あっ、あなたは誰!?」
ラプンツェルは今まで魔女と暮らしていたので、男の人を見た事がなかったのです。
王子はラプンツェルに、にっこりほほえみました。
「とつぜん現れて、すみません。実はあなたの歌声に心を引かれて、ここにやって来たのです」
ラプンツェルはとても驚きましたが、しかし王子のやさしい笑顔を見て安心しました。
魔女がラプンツェルのところにやって来るのはいつも昼間だったので、その日から王子は毎日夕方になるとラプンツェルに会いに行きました。
王子はラプンツェルに、色々な事を教えてくれました。
この国はとても広く、大勢の人が住んでいる事。
国の外にはさらに大きな世界が広がっていて、そこには海や山がある事。
王子はお城に住んでいて、この国のために働いている事。
魔女のおばあさんと、この塔が全てだったラプンツェルには、とてもすてきなお話しばかりです。
王子の話しを聞くうちに、ラプンツェルは外の世界へ行ってみたいと思うようになりました。
そんなある日、王子がラプンツェルに言いました。
「ラプンツェル、ぼくはあなたが好きです。どうかこの塔を出て、ぼくと一緒に城で暮らしてくれませんか?」
「ええ。わたしも、あなたと一緒に外の世界へ行きたいの。でも、どうやって塔を出ればいいの?」
他の人はラプンツェルの髪の毛を伝って上り下り出来ますが、ラプンツェル自身は塔を上り下りする事が出来ません。
少し考えた王子は、ラプンツェルに言いました。
「それでは、これから毎日、きぬ糸を少しずつ持ってきます。そのきぬ糸ではしごをあんで、ここから出て行きましょう」
次の日から王子はラプンツェルのところにきぬ糸を少しずつ持って行き、ラプンツェルはそのきぬ糸をあんではしごを作りました。
さて、この塔の部屋には、きぬ糸のはしごを隠すところがありません。
そこでラプンツェルは魔女に気づかれないように、作ったきぬ糸のはしごを自分の長い髪の毛の中に隠しました。
そして一ヶ月もすると、塔の下までとどくきぬ糸のはしごが完成したのです。
いよいよ明日は、ラプンツェルが塔の上から逃げ出す日です。
その日のお昼、いつものようにやって来た魔女は、ラプンツェルの長くて美しい金髪をなでながら言いました。
「お前の髪は、いつ見ても美しいね。
これからもわたしのために、その髪を伸ばし続けるんだよ。
・・・おや?」
魔女はラプンツェルの髪の毛をなでながら、金髪の中に白い物がまじっているのに気づきました。
「これは何だい? お前の美しい金髪の中に、白い毛がまじっているよ」
そして魔女はラプンツェルが髪の毛の中に隠してあった、きぬ糸のはしごを見つけたのです。
魔女は恐ろしい目で、ラプンツェルをにらみつけました。
「何だい!
この髪の毛に、隠しているはしごは!
もしかしてお前、このわたしから逃げるつもりなのかい!」
「ごめんなさい。でも、わたし、外の世界を知りたいのです」
「外の世界だって!?
そうかい、お前に悪い男が付いたんだね!
せっかくお前を世間から引き離しておいたのに、何て事だい!
今まで育ててやった恩を忘れて出て行こうなんて、お前は何てばち当たりなんだ!
お前なんか、もうわたしの娘じゃないよ!
望み通り、外の世界に放り出してやるわ!!」
魔女はそう言うと大きなハサミでラプンツェルの長く美しい髪の毛を、ジョキリジョキリと短く切り落としました。
そしてラプンツェルを塔から引きづり出すと、着の身着のままで世界の果ての荒れ野にラプンツェルを置き去りにしたのです。
さて、そうとは知らない王子は、夕方になると塔の上に呼びかけました。
「ラプンツェル、ぼくだよ。きぬ糸のはしごで、降りてきておくれ」
しかし、ラプンツェルからの返事はありません。
その代わり塔の上から、ラプンツェルの長い髪の毛が降りてきました。
「おや? ぼくに、登って来てほしいのかな?」
王子はラプンツェルの髪の毛を伝って、塔の上へ登って行きました。
するとそこにいたのはラプンツェルではなく、あの魔女だったのです。
魔女は王子をにらみつけると、意地悪く笑いました。
「おやおや。
誰かと思えば、王子さまだったのかい。
残念だけどお前のいとしい娘は、世界の果ての荒れ野にすててきたよ」
「何だって! よくもラプンツェルに、ひどい事を!」
「ひどい?
ひどいのは、どっちだい?!
お前の方こそ、わたしの可愛いラプンツェルをうばっておいて。
王子さまだから殺しはしないけど、罰としてお前の目玉をもらうよ」
魔女はそう言って、王子を塔の上から下のイバラの中に突き落としました。
「うわぁぁぁー!」
イバラの中に突き落とされた王子はイバラのトゲが目に入って、そのまま目が見えなくなってしまいました。
「あははははは!
いい気味だね。
これでもし、お前がラプンツェルと再開出来たとしても、お前は一生ラプンツェルを見る事が出来ないよ」
魔女は高笑いをしながら、どこかへ行ってしまいました。
王子は目が見えなくなってしまいましたが、まだラプンツェルをあきらめませんでした。
「ラプンツェル、待っていろよ。ぼくが必ず、助けてやるから」
王子は立ち上がると、荒れ野にすてられたラプンツェルを探す旅に出ました。
王子のラプンツェルを探す旅は、とてもつらい旅でした。
目が見えない王子は木の根や草の実を食べ、雨つゆをすすり、全身が傷だらけのボロボロでしたが、一日も休むことなく、何年も何年もラプンツェルを探し続けました。
「ラプンツェルは、ぼくの妻だ。必ず助けてやる」
そんなある日、目の見えない王子の耳に、なつかしい歌声が聞こえてきました。
♪ラララー、ララララーー
♪ラララー、ララララーー
「この歌声は!」
その美しい歌声は、王子が探し続けたラプンツェルの歌声です。
王子は歌声に向かって、声を張り上げました。
「ラプンツェル! そこで歌っているのは、ラプンツェルかい!?」
するとその声に、歌っていたラプンツェルが振り返りました。
「ああっ、王子さまー!」
ラプンツェルは、王子の胸に飛び込みました。
王子は、愛しのラプンツェルをしっかりと抱きしめます。
「ラプンツェル、無事だったんだね」
「ええ、いつか王子さまが迎えに来てくれる事を信じて、ずっとここで待っていました」
「そうか。おそくなってすまなかった」
ラプンツェルの目にも王子の見えない目にも、涙が次々とあふれ出ました。
「ラプンツェル、ぼくにはもうきみの美しい姿を見る事が出来ないが、こうしてきみと一緒にいられるだけで十分に幸せだ。さあ、一緒に帰ろう」
「はい」
その時、ラプンツェルの目からあふれ出た涙が、王子の見えない目にふりそそぎました。
するとそのとたん王子の目に光りがよみがえって、王子の目が見えるようになったのです。
「見える、見えるよ! きみの美しい姿が、はっきりと見えるよ!」
その後、目が見えるようになった王子はラプンツェルをお城に連れて帰り、国中の人々がお祝いする中、二人は結婚したのです。
そしてラプンツェルの本当の両親もお城で暮らす事になり、
やがて王になった王子とラプンツェルは、両親たちと一緒にいつまでも幸せに暮らしたのでした。
おしまい
→ おてがるバージョン ラプンツェル
この「ラプンツェル」は、ディズニー映画の『塔の上のラプンツェル』ではありません。
ディズニー映画の『塔の上のラプンツェル』の元となった、グリム童話の『ラプンツェル』を元にした福娘童話集です。
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