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6月9日の世界の昔話

黒ウシの助け

黒ウシの助け
イギリスの昔話 → イギリスの国情報

♪音声配信(html5)
音声 まちゃりんの読んだり〜の♪

 むかしむかし、あるところに三人の娘がいました。
 ある日、一番上の娘が言いました。
「お母さん、パンと肉を焼いてください。幸せを探しに出かけますから」
 お母さんは、パンと肉を娘にやりました。
 娘は魔法使いの洗濯女のところへ行って、これから幸せを探しに行くのだと話しました。
 すると、洗濯女は、
「しばらく、わたしの家に泊まっていきなさい。そして毎日毎日、裏口から外を見ておいで。なにか見えたら、わたしに言うんですよ」
と、言いました。
 さっそく娘は、裏口から外を見ました。
 はじめの日は、なにも見えませんでした。
 二日目も、なにも見えませんでした。
 三日目に娘が外を見ていると、六頭だての馬車(ばしゃ)がやって来ました。
 すると、洗濯女は、
「あれは、あなたの馬車ですよ」
と、言うので娘が外へ出てみると、馬車に乗っていた人がおりてきて娘を馬車に乗せてくれました。
 馬車はそのまま、かけ足で行ってしまいました。

 さて家では、二番目の娘がお母さんに、
「お母さん、パンと肉を焼いてください。幸せを探してきますから」
と、言いました。
 お母さんは娘の言うとおり、パンと肉をやりました。
 この娘も、魔法使いの洗濯女のところへ行きました。
 そしてやはり裏口から外を見て、二日過ごしました。
 三日目に娘が外を見ていると、四頭だての馬車が来ました。
 洗濯女は、
「あれは、あなたの馬車ですよ」
と、言うので娘が外ヘ出てみると、馬車に乗っていた人が娘を乗せてくれました。
 そして馬車は、かけ足で行ってしまいました。

 今度は一番下の娘が出かけたくなって、お母さんにパンと肉を焼いてもらいました。
 そして、洗濯女のところへ行きました。
 洗濯女は、
「毎日、裏口から外を見ておいで。なにか見えたら、わたしに言うんですよ」
と、言いました。
 最初の日は、なにも見えませんでした。
 二日目も、なにも見えませんでした。
 三日目になりました。
 娘が裏口から見ていると、黒ウシがひくい声でうなりながらやってきました。
 すると、洗濯女は、
「あれは、あなたのウシですよ」
と、言いました。
 娘はビックリして、泣きそうになりました。
 けれども洗濯女に言われた通り、外に出ました。
 すると黒ウシが待っていたので、娘は黒ウシによじのぼりました。
 娘が黒ウシの背中に座ると、黒ウシはかけ出しました。
 ドンドン進んで行くうちに、娘はだんだんお腹が空いてきました。
 やがてお腹はペコペコになって、今にも気が遠くなりそうです。
 するとそれに気がついたのか、黒ウシが娘に言いました。
「わたしの右の耳から食べなさい。そして左の耳から飲みなさい」
 娘は、言われた通りにしました。
 食べ終わると、娘はとても元気になりました。
 ウシは娘を乗せたまま、なおも進んで行きました。
 やがて、立派なお城が見えてきました。
 すると黒ウシは、
「今夜は、あのお城に泊まりましょう。わたしの兄が、住んでいますから」
と、言いました。
 間もなく、お城につきました。
 お城の人が出て来て、娘を黒ウシの背中からおろして城の中へ案内してくれました。
 黒ウシは、草地に連れて行かれました。
 朝になると、お城の人は娘を立派な部屋につれていきました。
 そして娘に、リンゴを一つわたしていいました。
「なにかこまったことがあったら、このリンゴをわりなさい。きっと、あなたはたすけてもらえます」
 娘はふたたび、黒ウシの背中に乗りました。
 黒ウシは娘を乗せて、ドンドン、ドンドンすすみました。
 しばらくすると、まえよりももっと美しいお城が見えてきました。
 すると黒ウシは、
「こんやは、あそこヘとまりましょう。わたしの二番目の兄が住んでいます」
と、いいました。
 お城につくとお城の人たちが出てきて、娘を黒ウシからおろして、お城の中へ案内してくれました。
 黒ウシは、草地ヘつれていかれました。
 朝になると、お城の人は娘をりっぱなヘやへつれていって、きれいなナシをわたしました。
「なにかこまったことがあったら、このナシをわりなさい。きっと、あなたはたすけてもらえます」
と、お城の人がいいました。
 娘は黒ウシの背中に乗って、また旅をつづけました。
 黒ウシがズンズンすすんでいくと、まえのふたつよりもずっと大きなお城が見えてきました。
「こんやは、あそこにいかなきゃなりません。わたしの一番下の兄が住んでいるのです」
と、黒ウシがいいました。
 お城につくと、お城の人たちがやってきて、娘を中に案内してくれました。
 黒ウシは、やはり草地につれていかれました。
 朝になると、娘は一番立派な部屋ヘ連れて行かれました。
 お城の人は、娘にスモモを渡して、
「何か困った事があったら、このスモモを割りなさい。きっと、あなたは助けてもらえます」
と、言いました。
 娘は、黒ウシの背中に乗りました。
 黒ウシは、またドンドン進みました。
 そして薄暗い谷間に、やって来ました。
 黒ウシは足をとめて、娘をおろしました。
 黒ウシは娘に、
「あなたは、ここにいなくてはいけません。
 わたしはちょっと強い奴と戦ってきますから、あなたはあの石の上にすわっていてください。
 そしてわたしが帰るまで、手も足も動かしてはいけませんよ。
 もしあなたがちょっとでも手や足を動かすと、わたしが勝って戻って来ても、あなたを見つけ出す事が出来なくなってしまうのです。
 もしあたりが青く染まったら、わたしはそいつをやっつけたと思ってください。
 赤く染まったら、わたしはやられてしまったと思ってください」
と、言って、行ってしまいました。
 そこで娘は、石の上に腰をおろしました。
 しだいにあたりが、青くなってきました。
 黒ウシが、勝ったのです。
 娘はうれしさのあまり、つい足を組みあわせてしまいました。

 黒ウシは戻ってきて、娘を探しました。
 しかしどうしても、見つかりません。
 娘は長いことすわって黒ウシを待ちましたが、黒ウシは現れません。
 娘はシクシクと泣きましたが、やがて立ち上がって歩き出しました。
 けれども、行くあてもありません。
 歩きまわっているうちに、ガラスの丘につきました。
 娘はなんとかしてガラスの丘にのぼろうとしましたが、どうしてものぼれません。
 娘は泣きながら、ガラスの丘のふもとをグルリとまわりました。
 ウロウロ歩いているうちに、娘はかじやの店の前に出ました。
 かじやは、
「七年の間、家で働いたら鉄のクツをつくってやろう。そうすれば、ガラスの丘にのぼることが出来るだろう」
と、言いました。
 そこで娘は七年の間働いて、鉄のクツをもらいました。
 そして、ガラスの丘をのぼったのです。
 そこには、もう一人の洗濯女の家がありました。
 家の中には血だらけの服を着た、若い騎士(きし)がいました。
 何でもその服をきれいに洗った者が、騎士の奥さんになれるということです。
 洗濯女は、一生懸命洗いました。
 けれどどんなに洗っても、血は取れませんでした。
 今度は、洗濯女の娘が洗ってみました。
 どんなにゴシゴシこすっても、血は少しもおちません。
 そこで、鉄のくつをはいてきた娘が洗ってみました。
 すると血はみるみるうちにおちて、服はきれいになりました。
 ところが、洗濯女の娘は、
「服をきれいにしたのは、わたしです」
と、騎士にうそをつきました。
 こうして騎士と洗濯女の娘が、結婚することになりました。
 これを知ると鉄のくつをはいた娘は、ひどくガッカリしました。
 一目見た時から、騎士が大好きになっていたからです。
 娘はふと、リンゴのことを思いだしました。
 リンゴを割ってみると、中から金や宝石が出てきました。
 娘は、洗濯女の娘に、
「これをみんなあげるわ。
 その代わり、結婚するのを一日だけのばしてちょうだい。
 そして今夜、わたしを騎士の部屋に入らせてください」
と、頼みました。
 洗濯女の娘は金と宝石をもらって、娘の申し出を承知(しょうち)しました。
 ところが洗濯女は、騎士に眠り薬を飲ませたのです。
 騎士は眠り薬を飲んで、朝までグッスリと眠ってしまいました。
 娘は騎士のべッドのそばで、夜通し泣いていました。
 そして、
♪七年の間、あなたのためにつくしました。
♪ガラスの丘を、よじのぼり、
♪着物の血も、洗ったわ。
♪それでも、あなたは寝ているの。
♪こっちをむいて、くださらないの。
と、歌いました。

 次の日、娘は悲しくて悲しくて、どうしてよいかわかりませんでした。
 そしてふと、ナシを割ってみました。
 ナシの中には前よりもずっとたくさんの、宝石や金が入っていました。
 これを、洗濯女の娘にやって、
「もう一日、結婚をのばしてください。
 そしてもうひと晩、騎士の部屋に入らせてください」
と、頼みました。
 洗濯女の娘は、承知しました。
 けれども騎士は、その晩も洗濯女に眠り薬を飲まされて、朝までグッスリ寝てしまいました。
 娘は、ため息をついて、
♪七年の間、あなたのためにつくしました。
♪ガラスの丘を、よじのぼり、
♪着物の血も、洗ったわ。
♪それでも、あなたは寝ているの。
♪こっちをむいて、くださらないの。
と、歌いました。

 次の日、騎士が狩りに出かけると、仲間の一人が言いました。
「きみの部屋から聞こえる音は、なんだ? うめき声と泣き声と、歌をうたう声が聞こえるぞ」
と、言いました。
「? ・・・ぼくは、何も知らない」
と、騎士は言いました。
 けれども仲間はみんな、すすり泣きを聞いたというのです。
 そこで騎士は、今夜は一晩中起きて見張っていることにしました。

 三日目の晩に、なりました。
 娘は、スモモを割りました。
 中からはリンゴを割った時よりも、ナシを割った時よりも、ずっとずっとすばらしい宝石が出てきました。
 この宝石で娘はまた、騎士の部屋に入る事が出来ました。
 洗濯女は、またしても眠り薬を騎士のところへ持って行きました。
 すると騎士は、
「ハチミツを入れて、甘くしてくれ」
と、言って、洗濯女にハチミツを取りに行かせました。
 洗濯女が行っているすきに、騎士は眠り薬を捨ててしまいました。
 騎士はべッドに入っていると、やがて娘がやってきてうたいはじめました。
♪七年の間、あなたのためにつくしました。
♪ガラスの丘を、よじのぼり、
♪着物の血も、洗ったわ。
♪それでも、あなたは寝ているの。
♪こっちをむいて、くださらないの。
 騎士は起き上がると、娘の方を向きました。
 娘は騎士に、何もかも話しました。
 この騎士こそ、あの黒ウシだったのです。
 魔法で黒ウシにされていた騎士は、『強い奴』と戦って勝ったので人間の姿に戻ったのです。
 それから谷間で娘を探したのですが、あのとき娘が足を組んでしまったので、見つける事が出来なくなってしまったのでした。

 あくる日、洗濯女とその娘は追い出されました。
 そして騎士と娘は、めでたく結婚したのです。

おしまい

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