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6月20日の世界の昔話
ギルガメシュの冒険
イラクの昔話 → イラクの国情報
むかしむかし、ある町の人たちは、いつもブツブツ言っていました。
「ギルガメシュ王は、自分勝手なことばかりする」
「あれじゃ、みんな困るよ」
それを聞いた天の神は、女神をよびました。
「ギルガメシュ王とたたかえる人間を、一人つくりなさい。きっと町の人を、すくってくれるだろう」
女神は、すぐ土をこねてつくりました。
体中に毛が生えていて、髪は長く、けものの皮を着ています。
名前を、エンキドウとつけました。
「エンキドウ、さあ行け」
エンキドウは森へ来ると、けものたちと暮らしました。
一緒に草を食べたり、小川に口を突っ込んで水を飲みました。
ある日、森のけものが猟師(りょうし)のアミにかかりました。
「なんだ。誰も助けられないのか」
エンキドウは、アミを切って逃がしてやりました。
この様子を、猟師が木のかげで見ていました。
「おそろしいけものが、現れたぞ」
猟師は青くなって飛んで帰ると、お父さんに話しました。
「それは大変だ。すぐエレクの町へ行って、王さまに知らせるんだ」
知らせを聞いたギルガメシュ王は、猟師に言いました。
「森へ娘を連れて行ってくれ。そうすれば、人間の国へ来るだろう」
猟師は言われた通りに、娘を連れて森につきました。
「お前は、この小川のそばにいるのだよ。どこへも行ってはならないよ」
そう言いつけて、猟師は家に帰りました。
水を飲みに来たエンキドウは、きれいな娘を見てすぐに好きになりました。
「ぼくと結婚してください。きっと大事にします」
それからエンキドウは、娘と一緒に暮らすようになりました。
すると不思議な事に、体に生えていた長い毛がなくなりました。
娘が、エンキドウに言いました。
「あなたはもう、立派な人間になったのですよ。町へ行きましょう」
「町へ行って、どうするんだね」
「町には、神さまと人間の間に生まれたギルガメシュという王さまがいます。とてもいばって、町の人たちを苦しめているんです」
「よし。行って、その王をこらしめてやろう」
二人は、町ヘつきました。
するとふえやたいこの音がして、にぎやかな行列が近づいてきました。
「あれは、なんだ?」
エンキドウが尋ねると、娘が答えました。
「王さまの結婚式です」
「そうか、あれが王さまだな」
言うがはやいか、エンキドウは飛び出して行って王に組み付きました。
「ややっ! 強そうな男だ」
「王も、かなわないぞ」
まわりのみんなが騒ぎ出す中、エンキドウと王は激しくたたかいました。
「王さま、あなたは町の人たちを苦しめていると聞く。ぼくが勝ったら、町の人を苦しめるのをやめるんだ!」
「よかろう」
王も強かったのですが、エンキドウにはかないません。
王はとうとう、組みふせられてしまいました。
「エンキドウよ、お前の勝ちだ。約束は、守ろう。そしてこれからは、友だちになろう」
エンキドウに負けてから、ギルガメシュはやさしい王になりました。
そして二人は、親友になったのです。
「エンキドウ、神の森にあるモミの木を切り倒して、みんなをおどろかそう」
冒険の好きな王が、言い出しました。
「でもあの森には、恐ろしい一つ目で火を吹くフンババがいるんだ。けものたちと暮らしていたとき見たんだ」
「では、神さまに助けてもらおう。そうすればやれる」
神たちは、反対しました。
でもギルガメシュのお母さんの天の女神が、太陽の神に頼んでくれました。
「さあ、いよいよ出発だ」
ギルガメシュとエンキドウは、剣やオノを持って出かけました。
普通の人ならひと月はかかる道のりですが、いさましい二人はたった三日で森の入り口につきました。
「大きなとびらが閉まっているぞ、エンキドウ」
エンキドウはとびらを押して、すき間からのぞいてみました。
「中に、フンババがいる。出てこないうちに、入ってつかまえよう」
入ったとたん、とびらがはね返ってエンキドウの手をはさみました。
「いたたっ!」
はさんだ手が痛くて、エンキドウは転がりました。
「帰ろう。とてもフンババは、やっつけられない」
「なんだ。それくらいの事でまいってどうするんだ。あそこがだめなら、森の奥で待ちぶせよう」
ギルガメシュは、先に立ってズンズン進みます。
エンキドウも、仕方なくついていきました。
やがて森の奥の、モミの木の山につきました。
「この高い山のてっぺんだな、神さまが集まって相談するところは」
「それにしても、疲れた。ちょっと休もう」
木のかげに入ると、二人はそろって眠りだしました。
朝になり目を覚ますと、二人は森の奥へ入りました。
「さあ、この大きなモミの木を切ろう」
ギルガメシュがオノをふるうと、モミの木はすごい音をたてて倒れました。
その音を聞きつけて、ひとつ目のフンババが飛び出してきたのです。
フンババはキバをむき出して、火を吹きながら近づいてきます。
「ウヒャァ!」
ギルガメシュは、怖くなって動けません。
その時、太陽の神の声が聞こえました。
「ギルガメシュよ。恐れずにフンババの目に、風を吹き付けるのだ」
ギルガメシュは、天に向かって頼みました。
「風の神さま、どうか風を送ってください」
するとみるみる強い風がおこって、フンババがヨロヨロしてきました。
目が、フンババの弱点だったのです。
「さあ、かくごしろ」
ギルガメシュとエンキドウは、フンババの首をバッサリと切り落としました。
「やった。うまくいったな」
ギルガメシュとエンキドウは、血のついた手や顔を川で洗いました。
「王さま、どうぞわたしの家へおいでください」
声がしたので振り向くと、美しい女の人が立っています。
「誰です? あなたは」
「この森の女神、イシュルタです。宝石をちりばめた、戦車をあげましょう」
「だまされるものか。あんたは人をだます、悪い女神だと聞いてるぞ」
「わたしの言う事を聞かないんですって! ギルガメシュ、どんな事になるか見ていらっしゃい」
怒った女神は、天のお城へのぼっていきました。
「お父さま、ギルガメシュはなまいきなんです。暴れると大あらしと大じしんをおこすウシを、ギルガメシュの前に放してください」
「いけないよ、そんな事は」
「いやです。聞いてくださらないと、わたし、じごくのとびらを開いて、死んだ人たちを放ちますよ」
お父さんの神は、困りました。
「仕方がない。だがウシを放すと、七年も食べ物が出来なくなるぞ」
「大丈夫です。人間の食べ物も、けものたちの食べ物も、たくさんありますわ」
「では、放そう」
見る間に大きなウシが、ギルガメシュとエンキドウに向かって飛び出しました。
「えいっ」
エンキドウは素早くツノをつかんで押し止めると、ウシの首に剣を突き刺しました。
それを知った女神が、二人に怒鳴りました。
「ギルガメシュ、よくも天のウシを殺したわね! はやくウシを返して」
「だめだ。これはもらって帰るよ」
「これからは、悪い考えはおこさない事だね。女神さん」
ギルガメシュとエンキドウは、うちとったウシをかついで森を出て行きました。
二人は、エルクの町につきました。
「王さまたちが、天のウシをうちとってこられたぞ」
「怪物の、フンババの頭もあるぞ」
「王さま、ばんざーい」
「エンキドウ、ばんざーい」
みんなは集まってきて、二人をほめたたえました。
ところがお城に帰って来てから、エンキドウは眠れなくなりました。
「ギルガメシュ、変な夢を見たんだ。神さまたちがぼくたち二人を殺そうとする夢なんだ」
「どうしてだ?」
「神さまの森を荒らしたし、天のウシを殺したからな。二人のうち、どっちかが死ななければならんと怒っていた。そして死ぬのは、ぼくの方だ」
「それなら、ぼくが死のう。エンキドウ」
どっちも、親友を助けたいと思いました。
「うれしいが、ギルガメシュには王さまとしての仕事がある。死ぬのは一人でいい」
エンキドウは親友にほほえむと、そのまま死んでしまったのです。
おしまい
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