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9月19日の世界の昔話
欲張り(よくばり)だんなと、とんち男
中国の昔話 → 中国の情報
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
むかしむかし、ある村に、欲張りで意地の悪いお金持ちのだんながいました。
村人たちは時々、このだんなからお金をかりる事があります。
ところがだんなは貸したお金に高い利子(りし)をつけて、返してもらう時には貸したお金の何倍もとるのです。
それで村人たちは、みんなこのだんなをうらんでいました。
さてこの村に、『とんち男』とよばれる、かしこいお百姓さんがいました。
このとんち男も、だんなに借りたお金がなかなか返せなくて困っていました。
「どうしよう。今日はお金を返す日だが、返すお金なんてないし。・・・よし、ここは得意のとんちで」
とんち男は作戦を考えると、急いで肉と魚と野菜を買ってきて、なべでぐつぐつと煮ておきました。
やがてだんながお金を取りにやってきたので、とんち男はだんなを家に入れました。
「さあ、どうぞこちらへ」
そしてとんち男は、おかみさんに言いました。
「早く、肉と魚を野菜を買っておいで。だんなさんに、なべをごちそうするんだから」
それを聞いて、だんなはにっこりです。
やがておかみさんは、肉と魚と野菜を買ってきました。
そして台所へ行ったかと思うと、すぐに、
「はい、おまちどおさま」
と、ぐつぐつ煮えたなべを持ってきたのです。
「もう出来たのか!? なんて早いんだ。いったいどうやって、なべを煮たんだね?」
だんながびっくりして聞くと、とんち男は、わざとひそひそ声で言いました。
「だんなだから教えますが、実はこれは魔法のなべなんです。材料を放り込めば、たちどころに煮えてしまうのです」
「ほう、そいつは便利ななべだな。どうだい、そいつをわしにくれないか?」
だんながそう言うと、とんち男はわざと困った顔をして言いました。
「これはわたしの家に伝わる家宝でして、いくらだんなでも」
「では、なべをくれれば、貸した金は返さなくてもいい。どうだ?」
「いや、その、それは・・・」
「じゃ、金を全部返せ! 今すぐ返せ!」
「・・・うーん、仕方ありません。魔法のなべは、だんなにゆずりましょう。だけどこの魔法のなべは『どんな事があっても、決して家から持ち出すな』と、言い伝えられています。それでもいいですか?」
「ああ、いいとも、かまわん」
なべを受け取っただんなは、大喜びで家に帰って行きました。
「えっへへ。うまくいったぞ」
さて、家へ帰っただんなは、さっそくお客を呼ぶことにしました。
「へえ、あの欲張りがごちそうするとは、おかしな事があるもんだ」
みんなは首をひねりながら、ぞろぞろやってきました。
お客がそろったところで、だんなが得意そうに言いました。
「今日は、わしの家に代々伝わる世にも珍しい魔法のなべで、おいしいごちそうを作ってさしあげよう」
だんなはなべの中に、肉と魚と野菜を投げ込みました。
「こうやって放り込みさえすれば、火にかけなくてもたちどころにおいしく煮えるのじゃ。さあ、遠慮せずに、じゃんじゃん食べてくだされ」
「そいつはすごい」
「はやく煮えないかな・・・」
「・・・・・・」
「・・・」
みんなはなべを取り囲んで、じっと待っていますが、いつまで待ってもなべは煮えてきません。
「・・・あれ? おかしいぞ?」
だんながあせっているのを見て、お客たちは大笑いです。
「あははははっ、とんだ魔法のなべだ」
すっかり恥をかいただんなは、かんかんに怒りました。
「あいつめ! 今から行って、ひどい目にあわせてやる!」
顔をまっ赤にしながらやってくるだんなの姿を見て、とんち男はおかみさんに何か耳うちをしました。
それから急いで塩の入った袋を持つと、ヤギを一頭つれて家の後ろにかくれました。
そこへだんなが、飛び込んできました。
「あれ、まあ、だんなさん。そんなに赤い顔をして、どうしました?」
「どうしたもへちまもあるもんか! お前の亭主はどこだ!」
「はい、ちょっと都まで、塩を買いに」
「都までだと! 都は、ここから何万里もあるんだぞ、このうそつきめ!」
「あら、本当ですよ。ものすごく足の早い『万里(ばんり)ヤギ』に乗って行ったので、あと一時間もすればもどるでしょう。でもお急ぎなら、もっと早く帰るように言いましょうか?」
「そうしろ!」
おかみさんは台の上に三本のせんこうを立てて、てきとうにおまじないの言葉をブツブツとなえはじめました。
それを聞いたとんち男は急いで表に回ると、汗をふくまねをしながら部屋に入ってきました。
「おい、おい、何の用だい? こんなに急がせて。ああ、くたびれた」
だんなは、ヤギに乗ったとんち男を見てびっくり。
(こいつ、本当に都から帰ってきたのか?)
だんなが不思議そうに見ていると、とんち男が言いました。
「おや、これはだんなさん。
ああ、そうそう、あのなべはいかがでしたか?
家から持ち出してしまったので、魔法の力が消えないかと心配していたのですが」
「いや、その。・・・それより、それが足の早いという万里ヤギか?」
「ええ、そうですとも。ほら、これがさっき都まで行って買ってきた塩ですよ」
とんち男はなべのすみをまぜて、わざと黒っぽくした塩を見せました。
「なるほど、このあたりの塩とは違うな。こりゃ、たしかに都の塩だ」
だんなは、万里ヤギがほしくなりました。
「わしもそいつに乗って、都へ行ってみたいものだ。ぜひ、ヤギをゆずってくれ。金貨十枚でどうじゃ?」
「はい、それはいいですが。
でも、だんなさん。
こいつはわがままなヤギでして、きれいに体をふいてやったあと、ていねいにおいのりをして『乗ってもよろしい』と、ヤギがうなずかないかぎり走りませんよ」
「よい、よい。ほら、金貨十枚だ。ヤギはもらっていくぞ」
家に帰っただんなは、さっそくヤギの体をきれいにふいてやり、おいのりをはじめました。
「さあ、早くうなずけ! 『乗ってもよろしい』と、早くうなづけ!」
だんなが何度おいのりしても、ヤギは知らん顔です。
「ええーい。もう、がまんならん!」
だんなはヤギに、飛び乗りました。
するとヤギはだんなを振り落として、どこかへ逃げてしまいました。
「あいたたた! むむっ、あやつめ、また、だましおったな。もうかんべんならん!」
だんなは力持ちの召使い三人をよんで、命令しました。
「あの大うそつきめをしばりあげて、川へ放り込んでしまえ!」
さっそくとんち男は召使いたちにつかまって、なわでグルグル巻きにしばられると川へかつがれていきました。
その途中で、とんち男は三人に頼みました。
「おい、頼むから、山にはすてないでくれよ。トラに食われるのは、いやだからな。すてるなら、川にしてくれ」
「そうかそうか。それならお前がいやがっている、山へすててやろう」
三人は、とんち男を山にすてました。
しばらくすると、腰のまがった年寄りのヒツジ飼いが通りかかりました。
「おや? そんなかっこうして、どうしたね?」
「ああ、こうやってグルグル巻きにして、腰の曲がったのを治しいるのさ。じいさんも、やってみるかい?」
「はいはい、それで腰が治るのなら」
ヒツジ飼いはとんち男のなわをはずしてやると、今度は自分がグルグル巻きになりました。
「じゃあ、ごゆっくり」
とんち男はヒツジを連れて、だんなの家へ行きました。
だんなは、とんち男を見てびっくり。
「あれっ? お前は、川で死んだはず?」
「はい。ですが『まだ死ぬのは早い』って、じごくのえんまさまが帰してくれたんですよ。おまけに、おみやげのヒツジをこんなにたくさん。それに今度来るときは、もっとすごい宝物をくれるそうです。だんなさん、お願いですから、また川へ投げ込んでくださいよ」
それを聞いただんなは、自分もやってみたくなりました。
「よし、わしもえんまさまのところへ行って、何かもらってこよう」
だんなはさっそく川へ行くと、ザブーンと飛び込みました。
欲張りだんなはそれっきり、帰ってはきませんでした。
おしまい
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