10月1日の日本民話
火太郎と長太郎
島根県の民話
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
二人には子どもがいないので、二人とも子どもがほしくてたまりません。
そこで毎日、近所の氏神(うじがみ→土地の神さま)さまにおまいりして、
「氏神さま。どんな子どもでもいいから、わしらに子どもをさずけてください」
と、おがんでいました。
ある日の事、おばあさんがかまどで、火をもやしていると、
「おばあさん、おばあさん」
と、どこからか人のよぶ声がします。
(はて、だれがいるのかな?)
おばあさんがあたりをキョロキョロ見回していると、なんとかまどの火の中から、男の子がとびだしてきたのです。
「うひゃー! おじいさん! おじいさん!」
おばあさんはあわてて、おじいさんをよびました。
「なんじゃ、そんなにあわてて。・・・おおっ、子どもがおる! こりゃ、きっと神さまがさずけてくださったにちがいない」
おじいさんも、ビックリするやらよろこぶやら。
そしてこの子どもに、火から生まれたので火太郎(ひたろう)という名前をつけました。
さて、おじいさんとおばあさんの子どもになった火太郎は、ごはんを一杯食べると一杯分だけ、ごはんを二杯食ベると、二杯分だけ大きくなりました。
ある日、おじいさんが山からもどってくると、えんがわに大きな柱が立っています。
(はて? こんなところに、柱があったのかな?)
と、不思議に思っていたら、柱が動いて上の方から、
「おじいさん、おじいさん」
と、よぶ声がするのです。
ビックリして上を見上げると、なんとそこには大きな男の子が立っていて、
「わしは長太郎(ながたろう)というもんだ。神さまの言いつけで、ここへやってきた」
と、言ったのです。
「なんともありがたい。火太郎に続いて、こんな大きな子どもまでさずけてくださるなんて」
おじいさんもおばあさんも、またまた大喜びで、二人の子どもをいっしょうけんめいかわいがりました。
二人とも力が強くて、大変な山仕事も、あっというまにかたづけてしまいます。
それに悪いことがきらいで、ある日、お百姓さんをこまらせている侍(さむらい)がいると、すぐとんでいってやっつけました。
ところが次の日、子どもたちのるすに、殿さまのけらいがたくさんやってきて、
「わしらの仲間がひどい目にあった。お前のところにいる二人の子どもを出せ。いやならお前をつれていく」
と、言いました。
おじいさんがことわると、けらいたちはおじいさんをしばりあげて、お城につれていきました。
さて、その事をおばあさんから知らされた火太郎と長太郎は、すぐにお城へ行って、
「どうか、おじいさんをかえしてください」
と、殿さまにたのみました。
すると、殿さまは、
「よし、じじいの命はたすけてやろう。そのかわり、お前たちは死刑だ」
と、言って、長太郎をろう屋にとじ込めると、火太郎を広場につれていきました。
「こいつを、火あぶりにしろ」
殿さまの命令で火太郎は木にしばりつけられると、足の下にまきがつみあげられました。
「それっ!」
まきに火がついて、まっ赤な炎がメラメラと火太郎をつつみます。
でも、火の中から生まれた火太郎は、ぜんぜん平気で、ニコニコしながら殿さまを見下ろしています。
「な、なんだ。もっと火を燃やすんだ!」
殿さまの命令で、まきがどんどんくべられましたが、火太郎はますますニコニコしながら殿さまを見下ろしていました。
そのとき、ろう屋から大きな音がして、長太郎がとびだしてきたのです。
大男の長太郎には、ろう屋をこわすぐらい簡単な事です。
それを見て、さすがの殿さまもこわくなり、
「二人ともゆるす。だから城をこわさんでくれ」
と、ないてあやまったという事です。
おしまい
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