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2年生の日本昔話(にほんむかしばなし)

ネズミの名作(めいさく)
むかしむかし、きっちょむさんと言(い)う、とてもゆかいな人がいました。
このきっちょむさんの村の庄屋(しょうや)さんときたら、大がつくほどの骨董(こっとう→価値(かち)のある古(ふる)い美術品(びじゅつひん))ずきです。
古(ふる)くてめずらしいものは、どんなものでも集(あつ)めて、人がくると見せては、じまんしていました。
ある日の、夕方(ゆうがた)。
きっちょむさんが、庄屋(しょうや)さんの家(いえ)へくると、
「おう、きっちょむさんか。よいところへきてくれた。おまえに見せたいものがある」
「また、骨董(こっとう)ですか?」
「まあ、そんな顔(かお)をせんと、とにかく見てくれ。なにぶんにも、天下に二つとない、りっぱな品(しな)じゃ」
そういって、庄屋(しょうや)さんは床の間(とこのま)から、いかにもとくいそうに、黒光(くろびか)りのする小さなほりものを、持(も)ってきました。
「庄屋(しょうや)さん。これは、ネズミのほりものですね」
「さよう。生きておって、いまにもそこらを走(はし)りそうじゃろう。みごとなもんじゃ、左甚五郎(ひだりじんごろう)もはだしと、いわにゃなるまい。こんな名作(めいさく)を持(も)っておるものは、日本広(ひろ)しといえど、わしひとりじゃろう。ワッハハハハ」
庄屋(しょうや)さんが、あんまりじまんするので、きっちょむさんは、つい、
「庄屋(しょうや)さん。じつは、こんなネズミのほりものなら、わたしの家(いえ)にもあります。しかもそのほうが、ずっとようできております」
と、いいました。
庄屋(しょうや)さんは、じまんの鼻(はな)をへしおられたので、すっかりきげんをわるくして、
「おまえなんぞの家(いえ)に、そんなりっぱなものが、あってたまるかい!」
「いいえ、ありますとも。ちゃんとあります」
きっちょむさんも、こうなったら負(ま)けてはいません。
「わたしのは先祖代々(せんぞだいだい)の宝(たから)で、天下の名作(めいさく)です。庄屋(しょうや)さんのこんなネズミなんか、話(はな)しになりません」
「なんじゃと! おまえの家(いえ)などに、そんなものがあってたまるか! もしあるなら、わしに見せてみい。ここヘ持(も)ってきて、見せてみい!」
「はい、あす持(も)ってきますよ」
「きっとだぞ!」
「ええ、きっと持(も)ってきますとも」
きっちょむさんは家(いえ)に帰(かえ)りましたが、きっちょむさんの家(いえ)には、そんなネズミのほりものなどありません。
「これは、ちょいとこまったな。えーと、どうしようか。・・・待(ま)てよ。うん、そうそう。これはうまくいきそうだ」
ニヤリと笑(わら)ったきっちょむさんは、おくの部屋(へや)に入ると、障子(しょうじ)をしめきって、なにかを、コツコツきざみはじめました。
じつは、じぶんでネズミの名作(めいさく)を、作(つく)ろうというのです。
夜(よ)どおしかかって、朝日(あさひ)が部屋(へや)に差し込(さしこ)んできたころ、ようやく完成(かんせい)しました。
「できた。これで、庄屋(しょうや)さんを負(ま)かすことができるぞ」
きっちょむさんは、きざみあげたネズミを風呂敷(ふろしき)につつむと、庄屋(しょうや)さんの家(いえ)まで走(はし)っていきました。
「おはようございます、庄屋(しょうや)さん。これがきのう話(はな)した、わたしの家(いえ)の宝(たから)ものです。名作(めいさく)です」
と、風呂敷(ふろしき)から、いかにもだいじそうに、ほりものをとりだして、
「どうです。このネズミこそ、ほんものそっくりでしょう」
と、ひと晩(ばん)かかってほりあげたネズミを、庄屋(しょうや)さんのまえにさしだしました。
「・・・? ぶぶぶーっ!」
庄屋(しょうや)さんは、思(おも)わずふきだしました。
「なにを笑(わら)いなさる。このネズミにくらベたら、庄屋(しょうや)さんのネズミなんぞは、はずかしゅうて、そばヘもよれません。はよう持(も)ってきて、くらベてごらんなされ」
「なんじゃと!」
庄屋(しょうや)さんは、さっそくじぶんのネズミを持(も)ってきました。
これは、くらベてみるまでもありません。
きっちょむさんのネズミは、しろうとの一夜(いちや)づくり。
庄屋(しょうや)さんのネズミは、名人の作品(さくひん)です。
それでもきっちょむさんは、じぶんのネズミのほうがすばらしいと、ほめちぎりました。
「えーい。おまえといくらいいあっても、話(はな)しにならん。和尚(おしょう)さんにでも、たちあってもらおう」
と、いうので、きっちょむさんは、
「よろしい。たちあってもらいましょう。だけど、ちょっと待(ま)ってくださいよ。ネズミを見わけるのなら、寺(てら)までいかずとも、ほれ、そこにおるネコのほうがよろしかろう」
「ネコ・・・。なるほど。では、ネコのとびついたほうが勝(か)ちじゃ」
「はい。では、もしわたしのほうにとびついたら、庄屋(しょうや)さんのネズミは、いただきますよ」
「おお、いいとも、いいとも」
と、いうわけで、ふたりのネズミを床の間(とこのま)にならベて、ネコをつれてくると、これはビックリ。
ネコはいちもくさんに、きっちょむさんのネズミにとびつきます。
「あっ!」
庄屋(しょうや)さんが、ビックリするひまもありません。
ネコはネズミをくわえたまま、すばやく庭(にわ)へとびおりて、どこかへいってしまいました。
「きっちょむの勝(か)ちじゃ! 庄屋(しょうや)さん、やくそくどおり、このネズミはいただきますよ」
きっちょむさんは、床の間(とこのま)にのこった庄屋(しょうや)さんのネズミをつかむと、家(いえ)ヘ帰(かえ)りました。
そして、庄屋(しょうや)さんのネズミをつくづくとながめて、
「なるほど。こりゃあ、りっぱなほりものじゃ。おかげで、家(いえ)にも宝(たから)ものができたわい」
じつは、きっちょむさんがひと晩(ばん)かかって作(つく)ったネズミは、ネコの大好物(だいこうぶつ)の、カツオブシでつくったネズミだったのです。
おしまい

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