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    福娘童話集 > きょうの新作昔話 >水のない村 弘法大師話 
      2014年 6月13日の新作昔話 
          
           
         
水のない村 
鹿児島県川辺長の民話 → 鹿児島県の情報 
       むかし、旅の途中の弘法大師が、水をめぐんでもらおうと百姓家に声をかけました。 
「旅の僧ですが、水をめぐんでは下さらんだろうか」 
「・・・・・・」 
 人の気配はありますが、返事がありません。 
 大師が戸の隙間から中をのぞいてみると、一人の若い娘が機をおっているところでした。 
「もし、娘さん。水を一杯めぐんでは下さらんだろうか」 
 しかし娘は振り向きもせずに、邪魔くさそうに言いました。 
「ふん。あんたにやるような水はないよ」 
「そこを何とか。ほれ、そこの土間の桶の水を、たったひとすくいでよいのです」 
「うるさいねえ! あたしはすぐにのどが渇くから、この水が全部必要なんだよ。さあ、とっとと出て行きな!」 
 すると大師は、おだやかな声で言いました。 
「そうですか。 
 ならば、あきらめましょう。 
 ・・・ただ、娘さんに一つ忠告しておこう。 
 さっきあんたはすぐにのどが渇くと言ったが、それはあんたの心が悪い病気にかかっておるせいだ。 
 すぐに心を改めないと、仏の罰を受ける事になるかもしれんぞ」 
 すると若い娘は、キッ!と大師をにらみつけて言いました。 
「何が仏の罰だ! 馬鹿馬鹿しい。そんな物が本当にあるのなら、仏に仕えるあんたが見せてみろ!」 
「・・・やれやれ」 
 あきれた大師は、娘を連れて近くの川へ行きました。 
 そして自分の持っていた錫杖(しゃくじょう)を地面に突き刺してお経のような物を唱えると、地面に突き刺した錫杖をポンと抜き取って、そのままどこかへ行ってしまいました。 
「はん! 何だい? これが仏の罰なのかい? 小さな穴をあけただけじゃないか。馬鹿馬鹿しい」 
 娘がそう言うと、不思議な事に川の水が流れを変えて、錫杖の小さな穴の中へどんどん吸込まれていくではありませんか。 
 
 やがて川から水が無くなり、この娘は一生水に困る事になりました。 
      おしまい 
         
          
         
        
       
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