| 福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 10月の日本昔話 > 切れない紙
 10月10日の日本の昔話
 
  
 切れない紙
 切毋斷个紙
 
 福妹日本童話集 (臺灣客語.海陸腔) 翻譯:鄧文政(ten33 vun55 zhin11)
 むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。頭擺頭擺,有一個安到彥一个人,非常聰明伶俐。
 ある日、彦一と庄屋(しょうや)さんが、茶館の前にさしかかると、
 有一日,彥一摎莊長行到一間茶館面前个時節,
 「ワハハハハッ。ええか、よく聞けよ。向こうは十五人で、こっちはわし一人。
 「哇哈哈。好好聽清楚哦!對方有十五儕,這片斯𠊎一儕。
 向こうも強かったが、わしはもっと強かった。右に左にバッタバッタときりすて、あっという間にみんなやっつけてしまったわ。
 對方當強,𠊎比佢還較強。左片正片pid piad㓾淨淨,眨下目分𠊎打橫了。
 ワハハハハハハッ。うん?酒がねえな。
 哇哈哈。m11?仰無酒?
 おい、ばばあ!酒だ、酒持ってこい」
 噯,老阿婆!酒,酒拿來。」  と、ぶしょうひげを生やした身なりの悪い浪人(ろうにん)が、酒をあおりながら得意になってしゃべりまくっています。
 聽著一個懶刮鬚、生著歸面鬍鬚麻家、裝扮盡差个浪人,緊大口啉緊發酒顛、講狂話。
 すると、茶館にいた旅人が教えてくれました。
 續等,茶館人客講︰
 「ああやって、みんなをおどかしてはただの酒を飲み歩いている、たちの悪い浪人ですぜ。強そうなので誰も知らん顔しているが、誰かとっちめてくれねえかね」
 「佢毋過係一個、歸日食酒行來行去嚇人,看起來當砸樣个浪人,無人知佢會做麼个、𠊎希望有人摎佢打橫來。」  確かにみんな怖がって、浪人と目を合わそうともしません。
 確實大家驚到會死,無人想愛看著浪人。
 「やい、ばばあ!酒はどうした!
 「噯,阿婆!酒拿去哪了!
 ・・・なにい、お金だと。
 ‧‧‧麼个、愛錢。
 ぶ、ぶれい者め!このおれさまから、金をとろうとぬかすのか。
 無、無禮貌个傢伙!你想愛偷吾錢係無?
 おもしれえ、とれるものならとってみろ!」
 好、你想愛偷斯偷看哪!」  浪人は茶館のおばあさんをつきとばすと、勝手に店の酒を飲みはじめました。
 浪人摎茶館个老阿婆𢱤橫以後,開始儘採拿店肚个酒來啉。
 たまりかねた庄屋さんが何か言おうとした時、それより早く彦一が浪人の前へ出ました。
 店頭家忍當毋著,想愛講話个時節,彥一早一步腳行到浪人面前。
 「もしもし、おさむらいさん」
 「噯,噯,武士大人。」
 「なんじゃ、お前は。小僧のくせにひっこんでろ!」
 「麼个東西,你毋過係一個細沙彌,退轉去!」
 「あんたは、本当にさむらいですか?」
 「你敢係正經个武士?」
 「な、なに?ぶ、ぶ、ぶしにむかって!ぶ、ぶ、ぶ、ぶれいなやつ!」
 「麼、麼个啊?武、武、武士看真兜!無、無、無、無禮貌个東西!」
 「そう、『ぶ、ぶ、』言わないでくださいよ。つばが飛んでくるじゃありませんか」
 「恁樣哦,拜託毋好『bu、bu、』滾,口水噴到滿天敢毋係?」
 「こ、こ、こやつ、ますますもって、ぶ、ぶ、ぶ、ぶれいな!」
 「這,這傢伙,越來越多、bu、bu、bu、毋好bu了哪!」
 「ほら、また飛んできた。ところで本当に強いんですか?そんな自慢するほど」
 「唉,還在該bu,毋過,正經恁強咩?恁沙鼻!」
 「なっ、つ、つ、強いに、決まっているだろう!」
 「麼个、正經恁強哦!」
 「そんなに強いなら、これが切れますか?」
 「假使你正經恁強,這你切得斷無?」
 彦一はそう言うと、ふところから一枚の紙を取り出して、浪人の目の前に広げました。
 彥一講煞過後斯在衫袋肚拿出一張紙,在浪人面前攤開來。
 浪人は、ひたいに青すじを立てて怒ります。
 浪人黏時閼到額頭青筋浮起來。
 「ば、ば、ばかにするな!た、た、たかが紙きれ、一刀のもとだ。そうじゃ、ついでにお前も、まっぷたつにしてやるぞ。かくごはよいか!」
 「毋、毋、毋好看人毋起!切一張紙定,一下刀个事。恁樣,順續摎你切兩析,有這決心無?」
 浪人は酒の入った茶わんを放り投げると、ギラリと刀を抜きました。
 浪人將酒碗㧒阿忒就摎金皙皙个刀仔挷出來。
 「わあーっ、抜いたぞ!」
 「wa24,挷出來了!」
 見ていた旅人たちが、さあっと、あとずさりしました。
 看著个旅客,歸陣仔打卵退。
 「彦一、ここはわしにまかせて、逃げた方がいいぞ」
 「彥一,這位交分𠊎,煞煞走。」
 庄屋さんが言いましたが、しかし彦一は落ち着いたものです。
 村長恁樣講,毋過彥一非常定板。
 「では、こうしましょう。あなたがこの紙を切ったなら、あなたがここで飲み食いしたお金をわたしたちが払います。でももし切れなかったら、自分で払ってくださいよ」
 「無恁樣,照恁樣做,若係你摎紙切斷來,你在這食忒个東西𠊎兜來付,假使切毋斷,你就自家付。」
 「おう、そりゃおもしれえ」
 「哦,盡生趣!」
 「ちゃんと、約束してくれますか」
 「無來打契約好無?」
 「くどい!ぶしに二言はないわ!」
 「毋使恁多漦濞,君子一言。」
 するとそこへ、ちょうど通りかかった立派な武士が二人に声をかけました。
 堵堵有一個當派頭个武士行過來,對佢兩儕講:
 「せっしゃが、立合人になってしんぜる。もし約束をたがえたら、せっしゃが相手になってつかわそう。さあ、両人とも用意をいたせ」
 「在下來做見證人。假使麼人違反約定,斯係摎𠊎作對。兩儕準備好哦。」
 「さあ小僧!紙をどこへでも置け!」
 「細沙彌,紙拿去儘採哪位放好!」
 浪人はニタニタ笑いながら、刀を高くふり上げました。
 浪人緊笑咪咪緊摎刀仔擎到高高。
 すると彦一は、近くの大きな石の上に紙を広げて言いました。
 彥一在就近摎紙攤開放在大石頭頂講:
 「さあ、まっぷたつに、どうぞ」
 「切做兩垤來,請!」
 「う、・・・」
 「m11‧‧‧」
 浪人は刀をふり上げたまま、目を白黒させました。
 浪人摎刀仔擎等高高,目珠貶白。
 「さあさあ、早くじまんの腕前を見せてください」
 「請,摎頭下該本等展來看啊!」
 「ううむ・・・」
 「m11‧‧‧」
 いくら剣術の名人でも、石の上に広げた紙を切るのは至難の業(しなんのわざ→とても難しいこと)です。
 無論劍術幾好,乜盡難摎攤開放在大石頭个紙切斷。
 「さあ、遠慮せずにどうぞ」
 「毋使客氣,請。」
 「ううむ・・・」
 「m11‧‧‧」
 動かない浪人に、立合人の侍が自分の刀に手をかけて言いました。
 做證个武士,手擎等自家个刀仔,對企等毋會停動个浪人講:
 「どうした、そこの浪人。約束通り、紙を切ってみよ。なにをグズグズしておるか」
 「仰般,該片个浪人,照契約,你愛摎攤開放在大石頭紙切斷來,你還在該摸摸挲挲做麼个?」
 「む、むむむ」
 「m11,m11 m11 m11」
 「切れぬか。しからば飲み食いした金を払い、ここを立ちされ。でないと、立会人のせっしゃが相手いたす。覚悟はよいか!」
 「切毋斷係無?該你斯撿錢,正做得離開這,係無,𠊎以見證人个身份做你个對手。有該決心無?」
 「お、お待ちくだされ。払う、払いますから、ですからどうぞ、ご、ごかんべんを」
 「哦,等一下,撿、𠊎撿錢,所以,請、請你原諒。」
 さっきまでのからいばりはどこへやら、浪人は大あわてで金を払って逃げてしまいました。
 頭下該惡霸形投毋知走哪去,浪人慌慌張張撿錢斯瀉走去了。
 侍は彦一の方に向き直ると、彦一に言いました。
 武士面𢳆轉來摎彥一講:
 「お主、なかなか大した勇気の持ち主だな」
 「你實在還有勇氣哪!」
 「いえ、それほどでも」
 「無像你講个恁有勇氣哪。」
 「だが、もしあの浪人が紙を切っていたらどうする?」
 「假使該浪人正經摎紙切斷个時節仰結煞?」
 「大丈夫です。いくらがんばっても、あの浪人の酒に酔った腕では紙は切れませんよ。もっともあなたなら酒に酔っていても、見事に紙をまっぷたつにするでしょうが」
 「無問題,該浪人食酒醉,毋管佢仰般出力乜無法度摎紙切斷,哪係你酒醉乜毋法度摎紙切斷做兩垤。」
 「なるほど、お主は勇気だけでなく、大した知恵と眼力を持っておる」
 「有影哦,你毋單盡有勇氣,還當有智慧。」
 侍をはじめ大勢の見物人は、あらためて彦一に感心しました。
 武士帶領所有圍看个觀眾,再過一擺感謝彥一。    おしまい煞咧
   
 
 |