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 5月16日の百物語
 
 
  
 人を襲う大ネコ
 和歌山県の民話 → 和歌山県情報
 
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  むかしむかし、紀州の国(きしゅうのくに→和歌山県)の熊野(くまの)の山に、トラに似たけものが住んでいると言われる大きなほら穴がありました。そのトラに似たけものは山のキツネやタヌキをエサにしていましたが、やがて山のキツネやタヌキが少なくなると村へやって来て、村人の子どもたちを襲うようになったのです。
 「化け物め、子どもたちを襲うとは許さん!」
 「必ず、かたきを取ってやる!」
 しかし村人たちでは、トラの様なけものを退治する事は出来ません。
 そこで村人たちは相談をして、近隣の村々から集めた猟師たちにけもの退治を頼んだのです。
 
 「たとえ本物のトラでも、これだけ猟師がいれば大丈夫だろう」
 猟師たちはけものが住んでいる大きなほら穴へ行くと、けものが出て来るのをじっと待ちました。
 「もうすぐ日が暮れるから、そろそろ出て来るはずだ」
 「出て来たら、いっせいに撃ち殺すんだぞ」
 猟師たちが鉄砲の引き金に指をかけたままで話しているところへ、ほら穴からイノシシほど(→イノシシの体長は、大きいもので一メートル以上)のけものが飛び出してきました。
 「出たぞ!」
 「撃ち殺せ!」
 猟師たちは、いっせいに鉄砲の撃ちました。
 「ズドーン!」
 「ズドーン!」
 「ズドーン!」
 しかしけものは素早い動きで鉄砲の玉をよけると、ネコの様に光る目玉で猟師たちをにらみつけました。
 「まだ生きているぞ! はやく玉を込めろ!」
 猟師たちはあわてて鉄砲に玉を込めると、再びけもの目掛けて鉄砲を撃ち込みました。
 「ズドーン!」
 「ズドーン!」
 「ズドーン!」
 しかしけものはそれらの玉もよけてしまうと、山の奥へと逃げて行きました。
 「何て化け物だ。あれだけ撃ったのに、一発も当たらなかった」
 「あれだけの速さで襲い掛かって来たら、おれたちなんてひとたまりもないぞ」
 猟師たちはひとまず、村へ帰る事にしました。
 
 次の日、鉄砲だけでは倒せないと思った猟師たちは、ほら穴の周りにワナを仕掛ける事にしました。
 竹で輪(わ)をたくさん作ると、それに鳥もち(→トリモチなどの樹液からとった、ネバネバの物)を塗ってほら穴の前に並べたのです。
 「この竹の輪は、足を入れるとしまる仕組みだ。おまけに鳥もちが塗ってあるから、一度足を入れると絶対に抜けん」
 「今度こそ、退治してやる」
 
 夕方、ワナを仕掛けた猟師たちがほら穴の近くで鉄砲を構えていると、ほら穴からけものが出て来ました。
 「よし、撃て!」
 猟師たちは、いっせいに鉄砲を撃ちました。
 「ズドーン!」
 「ズドーン!」
 「ズドーン!」
 するとけものは素早い動きでまた玉をよけましたが、その時に猟師が仕掛けたワナの輪に足を入れてしまい、輪がしまってけものは動けなくなったのです。
 「ギャーオーーッ!!」
 けものは必死にワナから逃げようとしますが、小さくしまった上に鳥もちがたっぷりと塗ってあるワナは、いくらもがいても外れません。
 「それっ! やっつけろ!」
 猟師たちはいっせいに飛び出すと、ワナにかかって動けないけものを棒で力一杯殴りつけました。
 「フギャーーッ! ギャーオーーッ!!」
 けものはすさまじい声でほえながら暴れ回りますが、やがて頭から血を流して動かなくなりました。
 「やったぞ!」
 「子どもたちのかたきを取ったぞ!」
 「それにしても、どんなけものだ?」
 猟師たちがあらためて倒したけものをながめると、それはイノシシよりも大きなネコだったのです。
 「トラかと思っていたが、まさかネコだったとは」
 「こんな大ネコが、この世にいたとは」
 
 その後、猟師たちがほら穴の中を調べててみると、タヌキやキツネの骨に混じって、人間の骨もたくさん出てきたという事です。
 おしまい   
 
 
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