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2月15日の世界の昔話
ダンスパーティーの幽霊
イタリアの昔話 → イタリアの情報
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 「フー」 ピッコロ朗読館
むかしむかし、北イタリアのパヴィーアという町で、ある娘が二十歳で亡くなり、恋人だった若者がふさぎ込んでしまいました。
心配した友だちが何度も呼びに行きましたが、若者は家に閉じこもったまま外に出ようとしません。
でも半年が過ぎて少し元気になった若者は、ようやく友だちと一緒にダンスバーティーに出かけたのです。
そして若者はダンスパーティーの会場で、亡くなった恋人によく似た娘を見つけたのです。
すその長い白いドレスを着たその娘は、ダンスパーティーだというのに誰とも踊らず、ただ一人で立っていました。
(本当によく似ているな。まるであの子が、生き返った様だ)
若者は吸い寄せられる様に、その娘のそばに行きました。
「きみ、どうして踊らないの?」
「だって、知っている人がいないんですもの」
「良かったら、ぼくと踊ってくれませんか?」
「・・・いいわ。踊りましょう」
若者が娘の手を握ると、娘は氷の様に冷たい手をしていました。
(冷たい手だな。まるで死人の様だ)
でも若者はあまり気にせず、娘と踊った後で娘をコーヒーに誘いました。
ひと休みする人たちで混み合っていたので、二人は立ったままでコーヒーを飲みます。
すると誰かが、娘の体にぶつかりました。
「あっ!」
娘のコーヒーがこぼれて、白いドレス一面にコーヒーのシミが出来てしまいました。
若者はすぐに拭いてやりましたが、コーヒーのシミはどうしても取れません。
「ごめん、これ以上はシミが取れないよ」
「いいのよ。あなたのせいじゃないわ。それに、わたしはもう帰るから」
「じゃあ、送っていくよ」
「いいえ、大丈夫よ。一人で帰れるわ」
「駄目だよ。一人で帰って何かがあったら大変だ」
若者は半ば強引に、娘と一緒に外に出ました。
その時、若者は娘がコートを着ていない事に気がつきました。
「きみ、コートは? 寒くはないかい?」
「大丈夫よ。寒くはないわ」
娘はそう言いましたが、若者は自分のジャケットを脱いで娘の白いドレスの上から着せてやりました。
「・・・ありがとう。やさしいのね」
しばらく行くと、娘はふいに立ち止まりました。
この先には、大きな墓地があります。
「送ってくれてありがとう。でも、もうここでいいわ。新しい家が、すぐそこにあるから」
娘はそう言って、ジャケットを返そうとしました。
すると若者は、
「いいんだよ。寒いから家まで着て行きなよ。じゃあ、また明日取りに来るから」
と、言って、走り去りました。
次の日、若者は娘と別れたところまで来てみました。
ゆうべは暗くて気がつかなかったのですが、この辺には墓地以外に何もありません。
「おかしいなあ? 家はすぐそこにあると言っていたのに」
その時、墓地の入り口に自分のジャケットがかけてあるのに気がつきました。
それを見て、若者はふと思い出しました。
若者の亡くなった恋人は、この墓地に埋葬(まいそう)されたのです。
「も、もしかして・・・」
若者は墓地の管理人を訪ねると、恋人の墓を開けてほしいと頼みました。
「きみが恋人だったのは知っているが、どんな訳があるのかね?」
「はい。実はその死んだはずの恋人に、昨日、会ったかもしれないのです」
「そんな馬鹿な」
若者から昨日の話を聞いた管理人は、首を傾げながらも墓を開けてくれました。
「あっ!」
墓の中を見た若者と管理人は、びっくりしました。
亡くなった恋人は白い死に装束のまま棺中に横たわっていましたが、その白い死に装束にはコーヒーのシミがはっきりとついていたのです。
おしまい
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