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12月30日の百物語
牛鬼 大晦日
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むかしむかし、ある海辺の村に、貧乏な夫婦がいました。
夫婦は毎日浜に出て魚や貝を取っては、それを売って暮らしていました。
ある年の、大晦日の事です。
普通なら仕事を休んで、お正月の支度をするのですが、貧乏な夫婦はいつもと変わりなく浜へ出かけました。
冷たい風が吹くなか、二人が魚や貝を取っていると、いつしか日が暮れてきました。
「もう、そろそろ帰ろうか?」
「そうね、帰りましょう」
そして夫婦が帰ろうとしたその時、風の音にまじって、
「モォーーーッ!」
と、不気味な声が聞こえました。
「おや、なんだろう?」
夫婦が声のした海の方をながめると、頭が牛で体が鬼の体をした化け物が波間から姿を現して、こちらに向かって来るではありませんか。
「逃げろ! 牛鬼だー!」
夫婦は魚も貝も放り出して、一目散に逃げ出しました。
「モォーーーッ!」
牛鬼は長い首を振りながら、逃げる二人を追いかけてきます。
「もうすぐだ! はやく家に入れ!」
夫婦はやっとの事で漁師小屋に逃げ込むと、急いで戸を閉めました。
逃げ込んだ夫婦がガタガタと震えていると、牛鬼は小屋の周りを何度も回ったすえ、いかにも残念という様に、
「モォーーーーーーーーーッ!」
と、ひと声うなると、海へ帰って行きました。
二人はあまりの恐ろしさに、しばらく口がきけませんでした。
この出来事があってから、村人たちは、
『大晦日に浜で仕事をすると、牛鬼が出る』
と、恐れて、大晦日は海に近づかなくなったそうです。
おしまい
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