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9月15日の日本民話 2
玄蕃丞狐(げんばのじょうぎつね)
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むかしむかし、桔梗ヶ原(ききょうがはら)に、玄蕃丞狐(げんばのじょうぎつね)といういたずらギツネがいました。
あるとき村の男が道を歩いていると、急に見たこともないような川に出ました。
変に思いながらも着物のすそをめくって川を渡り始めたところ、いくら渡っても渡り切れず、それどころか川は深くなっていくばかりです。
それでも懸命に渡ろうとしていると、後ろでケンケンとキツネの笑い声がして、はっと気がついてみるとそこは川ではなく、田んぼのまん中で立っていたというのです。
ある日の事、村の庄屋の家の前に人だかりができて騒いでいるので、何かと思ってみてみると、一人のきれいな娘が門のところに倒れているではありませんか。
庄屋はびっくりして、すぐに人を呼んで娘を家に入れてやりました。
そして布団にねかせて、あれこれと看病したところ、娘はようやく気がついて、
「お世話をかけて、申し訳ございませぬ」
と、まるで鈴をふるような声で言うのです。
問いただしてみると、何でも人を探して旅をしていたのですが、お腹がへって倒れてしまったと言うのです。
気の毒に思った庄屋は、さっそくごちそう作らせて娘を手厚くもてなしました。
さて次の朝、娘は庄屋の前に手をつくと、ていねいに礼を言って、
「大変お世話になりました。これはお礼のしるしです」
と、細いひもを通した銭をおいて出ていったのです。
ところが、後で娘のいた部屋をのぞいた庄屋はびっくり。
部屋中に昨日のごはんのおかずが散らかっていて、キツネの好物の天ぷらや魚しか食べていないのです。
「まるで、キツネが食い散らかしたようだな。・・・もしや!」
庄屋は、娘がお礼に置いていった銭を見ました。
するとそれは、木の葉を縄に通したものではありませんか。
「やられた! 玄蕃丞狐(げんばのじょうぎつね)だ」
庄屋はすぐさま娘を追って出たものの、もう娘の姿はどこにも見あたりません。
けれども、さすがの玄蕃丞狐(げんばのじょうぎつね)も親切にしてくれた庄屋をだましたのは気まずかったのか、それからというもの、相変わらず人を化かしはしたものの、庄屋のところにだけは現れなかったそうです。
おしまい
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