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6月5日の小話
とっくり幽霊
むかしからお酒の好きな人は、意地が汚いと言われています。
お酒があるうちは、
「もう一本」
「もう一本だけ」
「ほんとに、もう一本だけ」
「最後に、もう一本」
などと言いながら、ついつい全部飲んでしまうからです。
でもこれが出来るは、お酒を買える幸せな酒飲みで、お金のない酒飲みは、こうはいきません。
さて、ある長屋に、貧乏な侍がいました。
大のつく酒飲みでしたが、その日暮らしがやっとのありさまで、酒などめったに飲む事が出来ません。
この男があるとき、病で倒れてしまいました。
男はまくら元に、おかみさんを呼んで、
「わしがこのまま死んだら、なきがらはどうか備前の国(びぜんのくに→岡山県)の土にうずめてくれ」
と、弱々しい声で頼みました。
「はい、それはよろしゅうございますが、あなたは備前の国には縁もゆかりもないでしょうに」
おかみさんが、不思議そうに言うと、
「わしはこれまで、好きな酒を思うように飲めなかった。
せめて死んでからは、ゆっくりと酒を飲みたい。
酒のとっくりは、備前の土で焼いた物が一番よいとされている。
備前の土になってとっくりに焼かれれば、いつでも酒を入れておいてもらえるからな」
と、男は言いました。
しばらくすると男はあの世に行ってしまい、備前の土にうめられました。
「願い通りにしてあげたのだから、どんなに喜んでいる事でしょう。
今頃はもう、とっくりに焼かれておいしいお酒を入れてもらい、幸せにしている事でしょうね」
おかみさんがそう思っていると、ある晩おそく、男が幽霊になって現れました。
「うらめしや〜。水をくれえ、のどがかわいてたまらんのだ」
「あら? いったい、どうなされました。願い通り備前の土になって、とっくりに焼かれたのではありませんか?」
おかみさんが聞くと、
「ああ、お前のおかげで備前の土になることが出来、とっくりにも焼かれた。
しかしそれが、とんだあてはずれでな。
悲しい事に酒のとっくりではなく、しょうゆのとっくりなんだ。
毎日しょうゆびたりだもんで、のどがかわいて、かわいて、たまらずに出てきたのだ。
うらめしや〜、水をくれえ」
「はいはい、いまあげますよ」
おかみさんがひしゃくに水をくんでさし出すと、男はうまそうにごくごくと飲んで、すうっと消えていったそうです。
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
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