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10月15日の日本民話
不思議なびわ
京都府の民話→ 京都府情報
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むかしむかし、玄象(げんしょう)という名前のついた、すばらしいびわがありました。
このびわは宮中(きゅうちゅう)の宝物として代々の天皇に伝えられた物で、たくさんの宝物の中でも特別に大事にされてきたのです。
ところがある日の事、この大切なびわがなくなってしまいました。
みんなで探しましたが、どうしても見つかりません。
「だれが盗んだのだろう?」
「いいや。あれほど厳重(げんじゅう)にしまってあったものを、盗む事は出来ぬぞ」
「しかし、げんにないではないか。きっとだれかが盗んで、隠し持っているに違いない」
「いやいや、あのような名器を簡単に隠せるものではない。ちょっとでも音が出れば、すぐにわかってしまうのだから」
みんなは色々とうわさをし、なくなった事を知った天皇も、
「このようなとうとい宝物を自分の代になくしてしまうとは、まことに申し訳ないことだ」
と、大変なげかれました。
ちょうどそのころ、源博雅(みなもとのひろまさ)というびわの名人がいました。
博雅は若い頃に京都の東にあるおうさか山に三年もの間通って、宮中一と言われるほどにびわを練習した人です。
ですからこの名器がなくなったと聞いて、だれよりも深く悲しんでいました。
ある夜の事、宮中に泊まる番にあたっていた博雅(ひろまさ)が清涼殿(せいりょうでん)に座っていると、どこからともなくびわの音が聞こえてきました。
「おや?」
博雅は、じっと耳をすませました。
「あっ。あれは玄象だ! あのすばらしい音色は、玄象にちがいない!」
博雅は召使いの少年を連れて、外に飛び出しました。
「うむ、南の方から聞こえてくる」
音を頼りに歩いていくうちに朱雀門(すざくもん)まで来ましたが、音はまだ南の方から聞こえてくるのです。
博雅は音色にひかれるように、朱雀門を外に出ました。
そして京都のまん中を南北に通っている朱雀大路(すざくおおじ)を、南へ南へと進んでいきました。
気がつくと博雅は、羅生門(らしょうもん)の前にたっていました。
「ここだったのか」
びわの音は、この二階から聞こえてくるのです。
博雅はもう一度、びわの音に耳をすませました。
(たしかに、玄象の音色だ。しかしこれは・・・)
玄象にちがいないのですが、どこか変です。
(人間に、これほどの音色が出せるだろうか? ・・・そうだ、鬼だ。鬼がひいているのだ)
博雅は、とっさにそう考えました。
なぜなら羅生門の二階には鬼が住んでいると、言い伝えられているからです。
そのとき、びわの音がぴたりととまりました。
博雅はおどろいて、二階の方を見ました。
するとまた、びわの音が流れてきました。
博雅は勇気をふるって、声をかけました。
「そこでびわをひいているのは、どなたですか? 玄象がなくなったので、天皇さまはお探しになっておられます。今夜わたしが清涼殿(せいりょうでん)におりましたところ、南の方で玄象の音がしました。それで、ここまで探しにきたのです」
博雅が呼びかけると再びびわの音はとまり、そして二階の方からカタコトと音がしました。
博雅が見上げると、何か天井から下ろされてくる物があります。
(なんだろう?)
博雅が見ていると、それはつなにつるされたびわではありませんか。
「あ、玄象だ」
博雅はふるえる手で玄象を取ると、羅生門から走り去りました。
そして宮中に帰った博雅は、さっそく天皇に玄象を差し出しました。
天皇はとても喜んで、博雅からその時の様子を詳しく聞きました。
「なるほど、羅生門にあったというのか。それでは、見つからぬはずだ。羅生門なら、盗んだのは鬼であろう。あれほど厳重にしまっている名器が、人間に盗めるはずが無いから」
玄象はそれからも宮中の宝物として、大切につたえられたということです。
さて、この玄象にまつわる不思議な話は、他にもあります。
いつの頃か、宮中で火事がありました。
みんなはついうっかりして、玄象を持ち出すのを忘れました。
みんなは焼けてしまったかと心配していましたが、なんと玄象は一人で庭に出てきて、火事から逃れたそうです。
おしまい
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