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6月27日の日本民話 2
片目の龍神(りゅうじん)
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むかしむかし、ある池の近くに、五助(ごすけ)という貧しい木こりが住んでいました。
この五助には、さわという美人の娘がいます。
あまりの美しさに村の若者たちも、さわには手を出す事が出来ません。
また、近くの村々から、
「是非とも、家の嫁に」
と、いう話も多くありましたが、娘はなぜか首を縦に振ろうとはしませんでした。
そんな、ある秋の日の事。
五助が仕事の手を休めて山の下の林の方を見ると、このあたりでは見知らぬ若者と娘のさわが、楽しげに話しながら登って来るのが見えました。
「そうか、さわには、すでに良い人がおったのか。だが、さわが言い出すまで、そっとしておいてやろう」
こうして五助もさわも、その事にはふれずに暮して、次の年の夏になりました。
その夏は、ひどい日照り続きで、百姓たちは雨ごいをしましたが、雨は全く降りませんでした。
五助も一心に、水神さまにお祈りをする毎日です。
そんなある夜、水神さまにお祈りしようと、五助が祠(やしろ)の前でまきをくべていると、炎の中に去年の秋にさわと楽しげに語っていた、あの若者が現れました。
そして、こう言ったのです。
「願うならば、雨を降らせてやろう。だが、見事に雨が降らせたら、我の望みをかなえてもらうぞ」
そういうと若者の姿は、五助の前から消えてしまいました。
その明け方、池から黒雲がわき上がると、突然、どしゃぶりの雨が降り始めました。
そして五助の枕元に、傷つき疲れた若者が姿を現しました。
「我は、片目をつぶして雨を降らせた。よって我の望みの、さわをもらうぞ」
(なっ、お前は一体!)
五助は声を出そうとしましたが、金縛りにあってしまい、声も出ず体も動きません。
やがて若者は、となりで寝ているさわの手を取って表に出ると、闇の中を龍となって天へと登っていったのです。
おしまい
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