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9月3日の世界の昔話
七羽のカラス
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むかしむかし、ある男に七人の息子がいました。
けれども、娘はひとりもいません。
でもそのうちに、おかみさんのおなかが大きくなって、ようやく女の子が生まれました。
この男は、とてもよろこびましたが、女の子はとても小さくて、やせこけていました。
からだがよわいため、すぐに洗礼(せんれい→キリスト教の信者になる、頭から水をかける儀式)をうけさせなければなりません。
お父さんは男の子のひとりをおおいそぎで泉(いずみ)にやって、洗礼の水をもってこさせようとしました。
すると、ほかの子どもたちもいっしょにかけていきました。
そしてみんなで水を入れるツボを取り合いしたため、ツボを泉のなかにおちてしまったのです。
お父さんは、いつまでたってもだれもかえってこないので、イライラしていいました。
「きっと、またあそびにむちゅうになって、用事をわすれちまったんだな。しょうのないやつらめ。そんな役立たずは、みんなカラスになっちまえ!」
ところが、こういいおわるかおわらないうちに、頭の上でバタバタという羽の音がきこえてきました。
空をながめますと、炭のようにまっ黒なカラスが七羽、どこかへとびさっていきます。
「しっ、しまった! 子どもたちに、のろいの言葉をかけてしまった!」
さあ大変です。
お父さんの言葉どおりに、七人の息子はカラスになってしまったのです。
お父さんとおかみさんは、七人の息子をなくしたことを、たいそうかなしみました。
でも女の子が無事に成長して、とても美しい娘になったので、それでいくらかはなぐさめられました。
女の子は、じぶんに兄さんたちがいたことを知りません。
お父さんもお母さんも、この子のまえでは、兄さんたちのことを話さないように気をつけていたからです。
でも、とうとうある日、町の人たちが、
「あの子は美しいけれども、七人の兄さんたちがあんなにひどいめにあったのは、もとはといえば、あの子のせいなんだからなあ」
と、いっているのを聞いてしまったのです。
女の子は、すぐにお父さんとお母さんのところへいって、
「あたしには、兄さんたちがいたのですか? そしてその兄さんたちは、どこへいってしまったんですか?」
と、たずねました。
お父さんとお母さんも、もうこれいじょう、かくしておくわけにはいきません。
そこで、全てを話してやりました。
「でも、兄さんたちがそうなったのは、神さまがおきめになったことで、おまえが生まれてきたためではないよ」
けれども女の子は、まい日まい日、そのことばかり気にして、なんとかして兄さんたちをたすけだして、もういちど、もとのようなすがたにしてあげなければならないと思っていました。
そして女の子は、だれにも気づかれないように、こっそりと家をぬけだしました。
兄さんたちを見つけだして、どんなことをしてでも、もとの姿に戻してやろうと思ったのです。
家を出るとき女の子は、ほんのわずかのものしかもっていきませんでした。
お父さんとお母さんの思い出に、小さな指輪(ゆびわ)をひとつ、それからおなかがへったときのためにパンをひとかたまり、のどがかわいたときのために小さいつぼに水を一ぱい、それに、くたびれたときの用意にかわいいイスをひとつと、これだけしかもっていかなかったのです。
女の子は、どこまでもどこまでも歩いていき、とうとう、世界のはてまできてしまいました。
そこで、お日さまのところへいきましたが、お日さまはとってもあついし、小さな子どもを食べてしまうので、こわくてたまりません。
女の子は、あわててそこをにげだして、お月さまのところへかけていきました。
ところがお月さまはつめたすぎるうえに、女の子に気が付くと、
「人間の肉くさいぞ、人間の肉くさいぞ」
と、いうのです。
それで女の子は、ここもいそいでにげだして、お星さまたちのところへいきました。
お星さまたちはしんせつで、やさしくしてくれました。
そして女の子に、ヒヨコの足を一本あげると、こういいました。
「この足をもっていないと、ガラス山の門をあけることができないよ。きみの兄さんたちは、そのガラス山にいるんだよ」
女の子はその足をもらって、大切に布につつみました。
それからまた、長いこと歩いていきました。
やがて、ガラス山につきました。
門にはカギがかかっていました。
そこで女の子は、もらったヒヨコの足をとりだそうと思って、布をあけてみました。
ところが、なかはからっぽです。
女の子は、しんせつなお星さまたちからもらったものをなくしてしまったのです。
さあ、どうしたらいいのでしょう。
兄さんたちをたすけてあげたいのですが、ガラス山の門をあけるカギがありません。
女の子は、ふと自分の手の指を見ると、
「しかたがないわ。兄さんたちをたすけるためですもの」
ナイフをとりだして、じぶんのかわいい指を切りおとしてしまいました。
そしてそれを門のなかにさしこむと、カギがうまくあいたのです。
門のなかに入ると、ひとりの小人がでてきていいました。
「きみ、きみ、なにをさがしているの?」
「七羽のカラスになった、あたしの兄さんたちをさがしているのよ」
すると、小人はいいました。
「カラスさんたちは、いまるすだよ。でも、かえってくるまで待つ気なら、こっちへおいでよ」
それから小人は、カラスたちの食べものを七つの小さなおさらにのせ、飲みものを七つの小さなさかずきに入れてもってきました。
妹は、七つのおさらからひとかけらずつ食べ物を食べ、七つのさかずきからひとすすりずつ飲み物をのみました。
そして一番おしまいのさかずきのなかに、うちからもってきた指輪をおとしておきました。
そのとき、とつぜん空のほうからバタバタいう羽の音と、カアカアというなき声がきこえてきました。
すると、小人がいいました。
「さあ、カラスさんたちがかえってきたよ」
まもなく、カラスたちはおりてきました。
そして、
「だれがぼくのおさらのものを食べたんだ。だれがぼくのさかずきのものをのんだんだ。こんなことをしたのは、人間の口にちがいない」
と、カラスたちはじゅんじゅんにいいました。
しかし、七番目のカラスがさかずきをのみほしたとき、指輪がころがりでました。
よく見ますと、お父さんとお母さんの指輪です。
それに気づいたカラスがいいました。
「ああ、妹がここにいてくれたらなあ。そうすりゃ、ぼくたち、たすけてもらえるんだけど」
女の子は戸のうしろに立って、そっときいていましたが、この願いごとを耳にしますと、すぐにカラスたちのまえへ飛び出しました。
と、たちまちカラスたちは、もとの人間のすがたにもどったではありませんか。
みんなはかたくだきあって、キスをしあいました。
そして、自分たちの国へ帰ったのです。
おしまい
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