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トラのお話し 第 2 話
トラ退治
韓国の昔話 → 韓国の国情報
むかしむかし、あるところに、トラ狩りの上手なおじいさんがいました。
このおじいさんに鉄砲(てっぽう)を向けられたら、どんなに強いトラもたちまち撃ち殺されてしまいます。
ですからトラ山のトラたちは、おじいさんの姿を見ると慌てて逃げ帰ってしまいました。
「やあ、今日は危ないところだった。もう少しであのじいさんに見つかるところだった」
と、トラのお父さんは冷や汗をふきながら、子どもに話しました。
おじいさんの腕前は、トラたちの間では誰一人知らないものはありません。
けれどもおじいさんは、もう年を取っていました。
それで鉄砲の打ち方を、息子に教えたいと思いました。
ところがこの息子は大変な怠け者で、まったく鉄砲を習おうとはしないのです。
「そんなもの覚えたってしようがない。山中のトラは、親父がみんな退治しちまうだろうから」
と、勝手な事を言っては、毎日毎日遊んでいました。
「・・・・・・」
おじいさんはどうしようもなく、一人で山へ行ってはトラを打ち取っていました。
けれども息子のお嫁さんはとてもしっかりしているので、おじいさんはこのお嫁さんだけを頼りにしていました。
ある日、おじいさんがポックリと死んでしまいました。
今度は息子が働かなければ、暮らしてはいけません。
そこで息子は仕方なしに、山へ木を切りに出かけました。
ある時、息子が山で木を切っていると、木のかげから大きなトラが現れました。
息子はビックリして、腰が抜けてしまいました。
「ト、ト、トラさま。ど、どうか、お、お助けを・・・」
トラは、舌なめずりをして言いました。
「駄目だ。わしの家族はみんな、お前のじいさんに殺されてしまった。今度はこっちがお前を殺す番だ」
「ト、トラさま。待って下さい。召し上がるなら、明日の朝まで待って下さい。このたきぎを家へ置いてきますから。そうしないと、家の者が困るんです」
「・・・ふむ。それなら、明日の朝早く来い」
トラは、ゆっくり立ち去りました。
息子は青い顔で家にたどり着くと、お嫁さんに山で何があったかを話しました。
「それで、どうするつもりなの?」
と、お嫁さんは尋ねました。
息子は、
「どうするって、夜が明けたら、約束通り殺されに行くしかないだろう」
と、言って、泣き出しました。
すると、お嫁さんはニッコリして言いました。
「そうね。では行ってらっしゃいな。お父さんがトラ退治を教えて下さると言っていたのに、なまけていたあなたが悪いんですもの」
次の朝、息子はションボリとうなだれて、山へ登って行きました。
お父さんに鉄砲の打ち方ぐらい教わっておけばよかったと思っても、もうどうにもなりません。
おまけにお嫁さんまで、ニッコリ笑って送り出してくれたのです。
これではもう、死ぬよりほかはありません。
息子はお昼近くに、やっと昨日の場所ヘ着きました。
「やい、遅いぞ!」
トラが、キバをむいて怒鳴りました。
「は、はい、その、あの・・・」
と、息子がモグモグ言っていると、突然後ろの木の間から、
「せがれ、お前の前にあるのはたきぎか? それともトラか?」
と、言う声がしました。
ハッと振り向くと、木の間からトラ狩り名人のおじいさんが、鉄砲をこちらに向けて立っているではありませんか。
ビックリしたのは、トラの方です。
あわてて首をすくめると、息子に小声で言いました。
「『たきぎです』と、言え」
息子は、言われた通り、
「たきぎです!」
と、大きな声で返事をしました。
「それなら、なぜさっさと束にしてしばらないんだ?」
と、おじいさんが尋ねました。
するとトラが、
「『一人じゃ、しばれません。あとでやります』と、言え」
「一人じゃ、しばれません。あとで・・・」
息子が言いかけると、おじいさんは、
「一人で出来ないのなら、わしが手伝ってやる」
と、言いました。
トラは驚いて、
「じいさんを呼ぶな。お前一人でしばれ。その代わりあとでほどいてくれよ。お前を食うのは、やめにしてやるからな」
そこで息子は、震えながらトラをしばり始めました。
するとおじいさんは、
「グルグル巻きに、しばったか?」
と、尋ねました。
「いいえ、一回きりです」
「たきぎなら、グルグル巻きにしろ」
「うん。五回しばったよ」
「まだだ、もっと、しばれ」
息子は言われるままに、トラの体をグルグル巻きにしばりました。
「どうだ」
「十五回、しばったよ」
「よかろう」
おじいさんは鉄砲を持ちかえると、木の間から出てきました。
そして近寄ってきて、息子の顔を見てニッコリ。
「・・・? あっ、あれっ、お前かあ」
現れたのは、おじいさんの姿をした自分のお嫁さんだったのです。
しっかり者のお嫁さんのおかげで、だんなさんはトラを生け捕りにしたのです。
おしまい
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