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トラのお話し 第 9 話
トラとキツネ
和歌山県の民話 → 和歌山県情報
むかしむかし、中国のトラが海を越えて、日本へとやって来ました。
日本のキツネは頭が良いと聞いたので、キツネと勝負をしようと思ったのです。
トラはキツネを見つけると、さっそく言いました。
「俺は中国から来たトラだ。何でもよいから、お前と勝負をしたい」
「ふーん、勝負ねえ」
キツネは、竹やぶを見ながら言いました。
「勝負なら、竹やぶの中での早歩き競争はどうですか? 時間は明日の朝。こっちの竹やぶの端から出発して、反対側の端まで先に到着した方が勝ちです」
「よし、それはいい」
トラは、ニヤリと笑いました。
トラは竹やぶの中に住んでいるので、竹やぶの中での早歩き競争なら勝ったも同然です。
けれどキツネには、ちょっとした考えがあったのです。
キツネはトラと別れると、すぐに仲間のキツネを集めて早歩き競争の事を話しました。
「いいか。ここで負けたら、我々日本のキツネの恥になる。
そこでだ。
今夜のうちから、みんなはあちこちに隠れていてほしいんだ。
そしてぼくが、
『よーい、どん!』
と、大声で言ったら、ぼくのふりをして先に反対側の端で立っているんだ。
中国のトラは、キツネと言う生き物はぼくしかいないと思っている。
だから反対側の端にキツネが立っていたら、てっきりぼくが先についたと思ってくやしがるだろうよ」
「よし、わかった」
仲間のキツネは、さっそくあちこちに隠れました。
さて、朝が来ました。
トラは大はりきりで、竹やぶの出発点にやって来ました。
「では、トラさん、始めますよ」
キツネはそう言うと、大きな大きな声で
「よーい、どん!」
と、言いました。
するとトラは、さっそく早足で竹やぶの中を歩き始めました。
一緒に歩き始めたキツネを引き離して、ぐんぐんと竹やぶを進んで行きます。
「わはははは。おろかなキツネめ。このおれにかなうものか」
トラは、大笑いです。
ところが反対側の端近くに来て、トラはびっくりです。
なぜなら、ずっと後ろにいるはずのキツネが、にやにや笑って立っていたからです。
「なぜだ!」
トラはくやしがって、キツネに言いました。
「もう一度勝負だ。ここから元の場所まで競争しよう!」
「いいですよ。では」
キツネは、大きな大きな声で、
「よーい、どん!」
と、言いました。
トラは、さっきよりも頑張って、竹やぶの中を進みました。
「よし、今度こそおれさまの勝ちだ」
そう思ったのですが、最初の場所にはすでにキツネが立っています。
「トラさん。遅かったですねえ」
トラは、またまたくやしがり、もう一回、もう一回と、それから七回も競争を繰り返しました。
でも、何度やっても同じ事です。
「ちくしょう、おれさまが負けるなんて!」
くたくたにくたびれたトラは、くやし涙をこぼしながら中国へ帰って行きました。
けれど中国に帰ったトラは、キツネに負けた事がどうしてもくやしくて、自分の家来のネコに命令しました。
「お前たち、日本へ行って、キツネに噛みついてやれ!」
でもトラが日本へ送ったネコは、とてもあわてん坊のネコで、『キツネ』と『ネズミ』と聞き間違えて日本に来てしまったのです。
それで今でも、ネコはネズミを見つけると、追いかけまわすのだそうです。
おしまい
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