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牛のお話し 第 7 話
黒ウシの助け
イギリスの昔話 → イギリスの国情報
むかしむかし、あるところに三人の娘がいました。
ある日、一番上の娘がいいました。
「お母さん、パンと肉を焼いてください。しあわせをさがしにでかけますから」
お母さんは、パンと肉を娘にやりました。
娘は魔法使いのせんたく女のところへいって、これからしあわせをさがしにいくのだと話しました。
すると、せんたく女は、
「しばらく、わたしの家にとまっていきなさい。そして、まいにちまいにち、うら口から外を見ておいで。なにか見えたら、わたしにいうんですよ」
と、いいました。
さっそく娘は、うら口から外を見ました。
はじめの日は、なにも見えませんでした。
二日目も、なにも見えませんでした。
三日目に、娘が外を見ていると、六頭だての馬車(ばしゃ)がやってきました。
すると、せんたく女は、
「あれは、あなたの馬車ですよ」
と、いうので、娘が外へ出てみると、馬車に乗っていた人がおりてきて、娘を馬車に乗せてくれました。
馬車はそのまま、かけ足でいってしまいました。
さて、うちでは、二番目の娘がお母さんに、
「お母さん、パンと肉を焼いてください。しあわせをさがしてきますから」
と、いいました。
お母さんは娘のいうとおり、パンと肉をやりました。
この娘も、魔法使いのせんたく女のところへいきました。
そしてやはり、うら口から外を見て、二日すごしました。
三日目に娘が外を見ていると、四頭だての馬車がきました。
せんたく女は、
「あれは、あなたの馬車ですよ」
と、いうので、娘が外ヘ出てみると、馬車に乗っていた人が、娘を乗せてくれました。
そして馬車は、かけ足でいってしまいました。
こんどは、一番下の娘が出かけたくなって、お母さんにパンと肉を焼いてもらいました。
そして、せんたく女のところへいきました。
せんたく女は、
「まいにち、うら口から外を見ておいで。なにか見えたら、わたしにいうんですよ」
と、いいました。
さいしょの日は、なにも見えませんでした。
二日目も、なにも見えませんでした。
三日目になりました。
娘がうら口から見ていると、黒ウシがひくい声でうなりながらやってきました。
すると、せんたく女は、
「あれは、あなたのウシですよ」
と、いいました。
娘はビックリして、なきそうになりました。
けれども、せんたく女にいわれたとおり外に出ました。
すると黒ウシがまっていたので、娘は黒ウシによじのぼりました。
娘が黒ウシの背中にすわると、黒ウシはかけだしました。
ドンドンすすんでいくうちに、娘はだんだん、おなかがすいてきました。
やがて、おなかはペコペコになって、今にも気が遠くなりそうです。
するとそれに気がついたのか、黒ウシが娘にいいました。
「わたしの右の耳からたべなさい。そして、左の耳から飲みなさい」
娘は、いわれたとおりにしました。
たべおわると、娘はとても元気になりました。
ウシは娘を乗せたまま、なおもすすんでいきました。
やがて、りっぱなお城が見えてきました。
すると黒ウシは、
「こんやは、あのお城にとまりましょう。わたしの兄が住んでいますから」
と、いいました。
まもなく、お城につきました。
お城の人が出てきて、娘を黒ウシの背中からおろして、城の中へ案内してくれました。
黒ウシは、草地につれていかれました。
朝になると、お城の人は娘を、りっぱなへやにつれていきました。
そして娘に、リンゴを一つわたしていいました。
「なにかこまったことがあったら、このリンゴをわりなさい。きっと、あなたはたすけてもらえます」
娘はふたたび、黒ウシの背中に乗りました。
黒ウシは娘を乗せて、ドンドン、ドンドンすすみました。
しばらくすると、まえよりももっと美しいお城が見えてきました。
すると黒ウシは、
「こんやは、あそこヘとまりましょう。わたしの二番目の兄が住んでいます」
と、いいました。
お城につくとお城の人たちが出てきて、娘を黒ウシからおろして、お城の中へ案内してくれました。
黒ウシは、草地ヘつれていかれました。
朝になると、お城の人は娘をりっぱなヘやへつれていって、きれいなナシをわたしました。
「なにかこまったことがあったら、このナシをわりなさい。きっと、あなたはたすけてもらえます」
と、お城の人がいいました。
娘は黒ウシの背中に乗って、また旅をつづけました。
黒ウシがズンズンすすんでいくと、まえのふたつよりもずっと大きなお城が見えてきました。
「こんやは、あそこにいかなきゃなりません。わたしの一番下の兄が住んでいるのです」
と、黒ウシがいいました。
お城につくと、お城の人たちがやってきて、娘を中に案内してくれました。
黒ウシは、やはり草地につれていかれました。
朝になると、娘は一番りっぱなへやヘつれていかれました。
お城の人は、娘にスモモをわたして、
「なにかこまったことがあったら、このスモモをわりなさい。きっと、あなたはたすけてもらえます」
と、いいました。
娘は、黒ウシの背中に乗りました。
黒ウシは、またドンドンすすみました。
そして、うすぐらい谷間にやってきました。
黒ウシは足をとめて、娘をおろしました。
黒ウシは娘に、
「あなたはここにいなくてはいけません。わたしは、ちょっとつよいやつと戦ってきますから、あなたはあの石の上にすわっていてください。そして、わたしが帰るまで、手も足も動かしてはいけませんよ。もしあなたがちょっとでも手や足を動かすと、わたしが勝ってもどってきても、あなたを見つけだすことができなくなってしまうのです。もし、あたりが青くそまったら、わたしはそいつをやっつけたと思ってください。赤くそまったら、わたしはやられてしまったと思ってください」
と、いって、いってしまいました。
そこで娘は、石の上に腰をおろしました。
しだいに、あたりが青くなってきました。
黒ウシが、勝ったのです。
娘はうれしさのあまり、つい、足を組みあわせてしまいました。
黒ウシはもどってきて、娘をさがしました。
しかし、どうしても見つかりません。
娘は、ながいことすわって黒ウシを待ちましたが、黒ウシは現れません。
娘はシクシクと泣きましたが、やがてたちあがって、歩きだしました。
けれども、いくあてもありません。
歩きまわっているうちに、ガラスの丘につきました。
娘はなんとかして、ガラスの丘にのぼろうとしましたが、どうしてものぼれません。
娘は泣きながら、ガラスの丘のふもとをグルリとまわりました。
ウロウロ歩いているうちに、娘はかじやの店のまえに出ました。
かじやは、
「七年のあいだうちで働いたら、鉄のクツをつくってやろう。そうすれば、ガラスの丘にのぼることができるだろう」
と、いいました。
そこで娘は七年のあいだ働いて、鉄のクツをもらいました。
そして、ガラスの丘をのぼったのです。
そこには、もう一人のせんたく女の家がありました。
家の中には血だらけの服をきた、わかい騎士(きし)がいました。
なんでも、その服をきれいにあらったものが、騎士のおくさんになれるということです。
せんたく女は、いっしょうけんめいあらいました。
けれど、どんなにあらっても、血はとれませんでした。
こんどは、せんたく女の娘があらってみました。
どんなにゴシゴシこすっても、血はすこしもおちません。
そこで、鉄のくつをはいてきた娘があらってみました。
すると、血はみるみるうちにおちて、服はきれいになりました。
ところが、せんたく女の娘は、
「服をきれいにしたのは、わたしです」
と、騎士にうそをつきました。
こうして騎士とせんたく女の娘が、結婚することになりました。
これを知ると、鉄のくつをはいた娘は、ひどくガッカリしました。
一目見たときから、騎士が大好きになっていたからです。
娘はふと、リンゴのことを思いだしました。
リンゴをわってみると、中から金や宝石が出てきました。
娘は、せんたく女の娘に、
「これをみんなあげるわ。そのかわり、結婚するのを一日だけのばしてちょうだい。そしてこんや、わたしを騎士のヘやにはいらせてください」
と、たのみました。
せんたく女の娘は金と宝石をもらって、娘の申し出を承知(しょうち)しました。
ところがせんたく女は、騎士にねむりぐすりを飲ませたのです。
騎士はねむりぐすりをのんで、朝までグッスリとねむってしまいました。
娘は騎士のべッドのそばで、夜どおし泣いていました。
そして、
♪七年のあいだ、あなたのために、つくしました。
♪ガラスの丘をよじのぼり、
♪きものの血も、あらったわ。
♪それでも、あなたはねているの。
♪こっちをむいて、くださらないの。
と、うたいました。
つぎの日、娘は悲しくて悲しくて、どうしてよいかわかりませんでした。
そしてふと、ナシをわってみました。
ナシの中には、まえよりもずっとたくさんの、宝石や金がはいっていました。
これを、せんたく女の娘にやって、
「もう一日、結婚をのばしてください。そしてもうひと晩、騎士のへやにはいらせてください」
と、たのみました。
せんたく女の娘は、承知しました。
けれども騎士は、その晩もせんたく女にねむりぐすりを飲まされて、朝までグッスリねてしまいました。
娘は、ため息をついて、
♪七年のあいだ、あなたのために、つくしました。
♪ガラスの丘をよじのぼり、
♪きものの血も、あらったわ。
♪それでも、あなたは、ねているの。
♪こっちをむいて、くださらないの。
と、うたいました。
つぎの日、騎士がかりに出かけると、なかまの一人がいいました。
「きみのヘやから聞こえる音はなんだ? うめき声となき声と、歌をうたう声が聞こえるぞ」
と、いいました。
「? ・・・ぼくは、なんにも知らない」
と、騎士はいいました。
けれどもなかまはみんな、すすりなきを聞いたというのです。
そこで騎士は、こんやは一晩じゅうおきて、見はっていることにしました。
三日目の晩に、なりました。
娘はスモモをわりました。
中からは、リンゴをわったときよりも、ナシをわったときよりも、ずっとずっと、すばらしい宝石が出てきました。
この宝石で、娘はまた、騎士のへやにはいることができました。
せんたく女は、またしてもねむりぐすりを騎士のところへ持っていきました。
すると騎士は、
「ハチミツをいれて、あまくしてくれ」
と、いって、せんたく女にハチミツをとりにいかせました。
せんたく女がいっているすきに、騎士はねむりぐすりをすててしまいました。
騎士はべッドに入っていると、やがて娘がやってきて、うたいはじめました。
♪七年のあいだ、あなたのために、つくしました。
♪ガラスの丘をよじのぼり、
♪きものの血も、あらったわ。
♪それでも、あなたは、ねているの。
♪こっちをむいて、くださらないの。
騎士は起き上がると、娘のほうをむきました。
娘は騎士に、なにもかも話しました。
この騎士こそ、あの黒ウシだったのです。
魔法で黒ウシにされていた騎士は、『つよいやつ』と戦って勝ったので、人間のすがたにもどったのです。
それから谷間で娘をさがしたのですが、あのとき娘が足をくんでしまったので、見つけることができなくなってしまったのでした。
あくる日、せんたく女とその娘は追いだされました。
そして騎士と娘は、めでたく結婚したのです。
おしまい
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