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12月21日の百物語
大浪の池
鹿児島県の民話 → 鹿児島県情報
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むかしむかし、志布志(しぶし→ 鹿児島県東部 )に、子どものいないお金持ち夫婦がいました。
子どもが欲しい夫婦は、水神さまにお願いをしました。
「どうかわたしたちに、子どもを授けてください」
すると二十一日の満願の日に赤ちゃんを身ごもり、やがて玉の様な女の子が生まれたのです。
喜んだ二人は、女の子を、お浪(なみ)と名づけました。
お浪は大きくなるにつれて、とても美しい娘へと成長しました。
そして縁談も、次から次へと持ち込まれてきました。
けれどお浪は、それらの縁談を全て断わり続けるのです。
「並みの相手では、嫌なのかね」
「そうだな、お浪はあれだけの器量よしだからな」
そこで両親は、お浪にふさわしい相手を見つけてきました。
その相手は堺の豪商の三男で、なかなかの美男子です。
お浪の両親は若者をすっかり気に入りましたが、しかしお浪は、相変わらず縁談を承知しません。
「お浪よ。
お前はこの家を、終わらせるつもりかい?
どうか、婿を迎えておくれ」
両親が泣いて頼むので、お浪はしぶしぶと承知しました。
「・・・わかりました。でもその前に、霧島(きりしま)に参りたいのです」
「おお、おお、そのくらい、お安い御用じゃ」
さっそく両親は、お浪を連れて志布志(しぶし)を出発しました。
やがて三人は、霧島山中の湖に着きました。
「さて、そろそろお昼にしようか」
お浪の両親が、湖のほとりで弁当を広げました。
するとその時、お浪は立ち上がるとそのまま湖の中へ入って行き、湖の中に消えてしまったのです。
「お浪、どうしたんじゃ! 早く出て来るんじゃ!」
両親が、大声で叫びました。
すると湖面がざわざわと揺れて、水中からお浪が姿を現しました。
お浪はぽろぽろと涙をこぼしながら、両親に言いました。
「父さま、母さま。
もうこれ以上、おそばにおいていただくわけにはまいりません。
さらばでございます」
そしてお浪は、また湖の底に消えてしまったのです。
「どういう訳じゃ! お浪、もう一度、顔を見せておくれ。お浪!」
両親が必死で呼びかけると、そこに現れたのはお浪ではなく、世にも恐ろしい大蛇でした。
この時、両親は全てをさとりました。
お浪が、この湖に住む大蛇の生まれ変わりだった事を。
「・・・そうか。だが、大蛇でもよい。親子三人、家でひっそりと暮らそう。だから、帰って来ておくれ」
二人は一生懸命に叫びましたが、大蛇になったお浪は小さく首を振ると再び湖に姿を消して、二度と現れる事はありませんでした。
この事があってから、その湖は『大浪の池』と呼ばれる様になったそうです。
おしまい
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