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2月10日の世界の昔話
正直者のスエン
スウェーデンの昔話 → スウェーデンの情報
むかしむかし、重い病気にかかったお百姓が、三人の息子に財産を分ける事にしました。
けれど貧乏なので、上の二人に家と家具を与えてしまうと、末っ子のスエンには何も残りませんでした。
お百姓は、スエンに謝りました。
「スエンよ、すまないね。わたしがお前にやれるのは、わたしの心と死んだ妻が作ってくれた造花だけだ」
するとスエンは、にっこり笑って言いました。
「お母さんの作ってくれた造花は、この世で一番美しい物です。そしてまじめで正直なお父さんの心は、この世で一番素晴らしい物です。その二つをもらえて、ぼくは幸せですよ」
「スエン、・・・ありがとう」
やがてお父さんが亡くなると、スエンは造花と自分が作った弓を持って旅に出ました。
旅に出たスエンは、王さまの住んでいる都に着きました。
その頃、お城では王さまに仕える新しい家来を探しているところでした。
「よし、ぼくも申し込んでみよう」
お城へ行ったスエンが家来になる事を申し出ると、金の王座に座った王さまが言いました。
「その様にみすぼらしい格好で、よくこの城に来たものだな。・・・まあいい、お前は弓を持っているが、腕前を見せてみろ」
そこでスエンは、お姫さまの手のひらにサクランボウの種を乗せて、その種を見事に射落としたのです。
これには、王さまも感心して言いました。
「うむ。見事だ! 他にも何か、特技を持っているか?」
「はい。わたしは死んだ父から、正直な心を受け継ぎました。弓以外の自慢は、うそをつかない事です」
意外な答えに、王さまは笑って言いました。
「うそをつかないのが、自慢とは。では聞くが、姫はこの世で一番美しいかな?」
「はい、とてもお美しいです。
でも、一番ではありません。
この世には、お姫さまよりも美しい女性はたくさんいます。
そして、わたしがこの世で一番美しいと思う物は、母が作ってくれた造花です」
スエンが正直に答えると、お姫さまの機嫌が悪くなりました。
でも王さまは、正直に答えたスエンが気に入った様子です。
「よし。今夜一晩、わしの部屋の前で見張りをしてみろ。うまくできたら、家来にしてやろう」
その夜、王さまはスエンにごちそうを食べさせて、上等のぶどう酒を飲ませてやりました。
そしてお腹がいっぱいになったスエンは、見張りをするために王さまの寝室の前に行きました。
そこにはテーブルがあって、王さまの王冠と金のくさりが乗せてあります。
「いいか、決して眠ってはならんぞ。もしも王冠と金のくさりが盗まれたら、死刑だからな」
王さまはそう言うと、寝室に入ってしまいました。
スエンは一生懸命に見張りを続けましたが、どういうわけか眠たくてたまりません。
そして気がつくと、ぐうぐうと寝込んでいたのです。
「しまった!」
目を覚ましたスエンは、テーブルの上の王冠と金のくさりがなくなっているのを見て驚きました。
このままでは、スエンは死刑になってしまいます。
けれど父親から正直な心を受け継いだスエンには、だまって逃げる事が出来ません。
翌朝、王さまが起きてくると、スエンは正直に寝てしまった事を話しました。
王さまは、スエンに尋ねました。
「なぜ、逃げなかったのだ? 死刑になるかもしれぬというのに」
スエンは、胸を張って言いました。
「父から正直な心を受け継いだわたしは、うそやひきょうな事はしません。さあ、死刑にしてください」
すると王さまは、スエンにニッコリ微笑みました。
「許してくれ。お前が本当に正直な心を持っているのか、試したのだ」
そして王さまは、ぶどう酒に眠り薬を入れた事を白状したのです。
もちろん王冠と金のくさりを隠したのも、王さまの仕業でした。
こうして王さまの家来になったスエンは正直な心で人々の人望を集めて出世して、やがてお姫さまと結婚してこの国の王さまになったのです。
その時スエンは、お姫さまへの贈り物に宝物の造花をあげたそうです。
おしまい
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