| 
      | 
    福娘童話集 > きょうの日本民話 > 7月の日本民話 >  どくろのお経 
      7月5日の日本民話 
        
        
       
どくろのお経 
和歌山県の民話 → 和歌山県情報 
       むかしむかし、紀伊の国(きいのくに→和歌山県)の山寺に、えらいお坊さんがいました。 
 里の人たちは、このお坊さんを「紀伊菩薩(きいぼさつ)」とよんでいました。 
 ある年の事。 
 一人の若者がこの菩薩さまに、弟子入りを願い出ました。 
 この弟子は大変よく働きますし、すこしでも時間があれば、いつもお経をよんでいました。 
 そして何年もお経をよむうちに、このお坊さんの声はとても美しい声となって、里では評判でした。 
 ある日、この若い坊さんは、師の菩薩にいいました。 
「私はこれから諸国(しょこく)を行脚(あんぎゃ→各地を歩いて修行すること)して、仏の教えをひろめとうございます」 
「それは感心な事じゃ」 
 師の菩薩も、この若い弟子を心からほめて、寺から送り出したのです。 
 さて、それから三年の月日がながれたころ、熊野の村に、船大工(ふなだいく→船作りの人)たちがやってきました。 
 この人たちは木を切って船をつくろうと、山の中に小屋を建てて、そこで仕事を始めたのです。 
 するとどこからともなく、お経を読む声が聞こえてきました。 
 その声は、少しも休むことなく聞こえてくるのです。 
「はてさて、なんと美しい、おごそかな声じゃろう」 
「こんな山の中で、ああも一心にお経をよんでおられるとは、とてもすばらしいお方にちがいない」 
「ぜひ、お目にかかりたいものじゃ」 
と、みんなはおそなえものを持って、山の中をさがして歩きました。 
 ところが一日中さがしても、その姿は見ることが出来ませんでした。 
 ガッカリして小屋に帰って来ると、またどこからともなく、お経が聞こえてくるのです。 
 船大工たちは、それから何度も山中を探しましたが、いっこうに姿を見つけることは出来ません。 
 それから半年ほどたって、船大工たちは、また山ヘ入っていきました。 
 すると前と同じように、お経を読む声が聞こえてくるのです。 
「どうも、これは不思議なことじゃ」 
「なにか、わけがあるにちがいない」 
と、またみんなで、山の中をさがして歩きました。 
 今度も声をたよりに歩きましたが、なかなか見つかりません。 
「もしかしたら、川の流れの音が岩山にぶつかって、お経のように聞こえてくるのでは?」 
「いや、あれはたしかに、お経をよまれるお坊さんの声にちがいない」 
 なおも探していると、一行はけわしい岩山に出ました。 
「おや? あれは、なんじゃ?」 
 一人の男が指さした方を見てみると、谷底のしげみの間に、なにか白いものがあります。 
 谷ヘおりてそばによってみると、なんとそれはガイコツでした。 
 死んでから何年もたっているとみえて、もう、白い骨が残っているだけです。 
 盗賊に身ぐるみはがれてここへすてられたのか、それとも、オオカミにでもおそわれたのか。 
「ああ、気の毒な事じゃ」 
と、みんなで手を合せると、なんとそのガイコツが、大きな声でお経をあげはじめたのです。 
 船大工たちはビックリすると、あわててその場から逃げ帰りました。 
 それから三年後、船大工の一人が山寺にたちよって、紀伊菩薩にこの話しをしました。 
 すると菩薩は、しばらく考えていましたが、 
「その仏さまをひきとって、手あつくほうむってあげたいのう」 
と、さっそく熊野の山ヘ出かけたのです。 
 そして菩薩が船大工の小屋のそばヘきた時、菩薩は首をかしげました。 
「おお、確かに聞こえる。しかし、この声には聞き覚えが・・・。そうじゃ! この声はわしの寺におって修業の旅に出た、あの弟子の声にちがいない」 
 菩薩は案内されて谷底へいってみると、そこにはガイコツはありませんでした。 
 ただ、ドクロが一つ、ゴロンところがっています。 
 そしてそのドクロの口の中から、あのお経が聞こえてくるのです。 
 紀伊菩薩も一緒にお経をとなえながら、ドクロの口の中をのぞいてみました。 
 すると不思議な事に、ドクロの口の中には舌(した)だけがくさらずにまだ残っていて、その舌が動いて、一心にお経をとなえていたという事です。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
     | 
      | 
     |