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    福娘童話集 > きょうの日本民話 > 7月の日本民話 >  娘にばけた花の精 
      7月1日の日本民話 
        
           
        娘にばけた花の精 
  富山県の民話 → 富山県情報 
       むかしむかし、越中の国(えっちゅうのくに→富山県)に、長棟(ながと)の鉛山(えんざん)とよばれる鉱山(こうざん)がありました。 
 毎日、たくさんの鉛(なまり)がほりだされて、それを富山(とやま)まで運ぶウシの行列(ぎょうれつ)が、どこまでもつづいたといわれています。 
 ウシの首につけてある、スズの音がひびくたびに、 
「なんて景気(けいき)のいい音だ。この音がつづいているあいだは、いくらでも金がもうかるぞ」 
と、土地の人たちは喜んでいました。 
 なにしろ、ここで取れた鉛は次々と江戸(えど→東京都)へおくられて、いろいろな物に使われるので、いくらあってもたりないのです。 
 鉛山の町では毎晩のように宴会(えんかい)がひらかれて、飲めや歌えの大さわぎ。 
 どの料理屋も、大はんじょうでした。 
 ある晩も、鉱山で働く人たちの親方があつまって、料理屋で宴会をひらいていました。 
 しゃみせんにあわせておどったり、歌ったりする女の人や、おしゃくをする女の人もたくさんいて、宴会はいよいよにぎやかになっていきました。 
 するとそのとき、美しい三人の娘が現れて、ゆっくりとおどりはじめました。 
 一番年上らしい娘は、まっ白な着物をきて、それより三つばかり若い娘は、うすむらさきの着物をきています。 
 一番年下らしい娘は、あわい紅色の着物をきており、広間はまるで、三つの美しい花がさいたみたいです。 
 娘たちは自分たちで歌を歌いながら、まるでチョウがとびかうようにまいつづけます。 
 酒によっぱらって大声をあげていた男たちも、その美しさには声も出ません。 
(なんて、きれいな娘たちだ) 
(あのおどりのすばらしいこと。まるで風にまう花びらだ) 
 親方の一人が、たまりかねていいました。 
「いなかの山の中にこんなきれいな娘がいるなんて信じられん」 
 そこで料理屋のおかみさんをよんできて、どこの娘か聞いてみることにしました。 
 ところが不思議なことに、おかみさんは娘たちを知らないと言うのです。 
 やがて、娘たちの歌う歌にあわせて、しゃみせんがひかれました。 
 三人の娘たちは一段とかがやいて、だれ一人席をたつものがありません。 
 ところが、さっきからよいつぶれてねむっていた男が、ふと目をさましました。 
 見ると目の前に、あわい紅色のきものをきた娘が、まうようにおどっています。 
 男はしばらくは娘のおどりを見ていましたが、ふいにたちあがると、娘の手をつかんでいいました。 
「おれのさかずきに、酒をついでくれ」 
 娘はその手をさっとはなして、ニッコリほほえみました。 
 男はなおも娘のそばへいき、今度は両手で娘をだきかかえました。 
「こら、なにをする!」 
 お客の一人がどなりましたが、それでも男は手をはなしません。 
 するとそのとき、まっ白な着物をきておどっていた娘が、持っていたおうぎをさっと男になげました。 
 バチン! 
 おうぎはするどく、男の手をうちました。 
「いてえ、なにをする!」 
 男は娘をはなして、おうぎをなげた娘の方にむきなおりました。 
 そのとたん、三人の娘の姿がフッときえたのです。 
「・・・あれ?」 
「おい。いまの娘たちは、どこへきえたんだ?」 
 なん人かの客があわてて外へ出てみましたが、どこへきえたのか、娘たちの姿はありませんでした。 
 あとで土地の人が調べてみると、この三人の娘は山神さまにささげる三薬草(さんやくそう)の化身(けしん→神さまが化けたもの)で、みずばしょう、やなぎらん、くがいそうの精だというのです。 
 町があんまりにぎやかなので、つい人間の娘になって、姿をあらわしたと言うことです。 
 でも、あのよっぱらいのおかげで、それからは二度と現れなかったと言うことです。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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