366日への旅 記念日編
 


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1月2日の百物語

死に神のつかい

死神の使い

日本語 ・日本語&中国語

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 「つれづれ居士」  つれづれ居士

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投稿者 ふわふわスリープ

♪音声配信(html5)
音声 琴菜 ASMR

♪音声配信(html5)
朗読者 : スタヂオせんむ

 戦国時代には、多くの殿さまが自分と良く似た家来を影武者(かげむしゃ→敵をあざむくため、殿さまと同じかっこうをさせた武者)にして、自分が殺される確率を減らしていました。

 ある日の夕方。
 髪の毛が真っ白のおじいさんが、お城へとやって来ました。
「こら、用のない者が入ってはならん!」
 門番が追い返そうとしましたが、おじいさんは門番の腕をすり抜けて、そのまま城の中へと入っていったのです。
「くせ者じゃ、取り押さえろ!」
 門番が大声で言った時、すでにおじいさんは影武者の部屋に入っていました。
「何者か?」
 影武者が言うと、おじいさんが答えます。
「お前さまを、お迎えにまいってございます」
「迎えとは、わしをどこへ連れて行くつもりだ?」
「はい、めいどの旅へでございます。
 明日のこの時間に、また参ります。
 それまでに、お支度をなさっておかれませ」
 それを聞いて、影武者にはおじいさんの正体が分かりました。
「お主は、死神の使いだな。だが、わしはまだ死なぬぞ。死んでたまるか!」
 影武者が、刀を抜きました。
 でも、おじいさんは落ち着いた声で言います。
「死にとうないとお思いなら、よい事をお教えいたしましょう。
 お前さまと良く似たお方を、明日のこの時間に、この部屋におかれませ。
 お前さまの代わりに、そのお方を連れて行きましょう。
 ・・・お前さまに良く似たお方とは、言わなくともわかりますな 」
 おじいさんはそう言うと、煙の様に消えてしまいました。
「わしに、良く似たお方か・・・」
 影武者は少し考えて、ニンマリと笑いました。
 影武者に良く似た者は、このお城に一人しかいません。
「これこそ、もっけのさいわいというもの。
 一生影武者のままで生きるしかないわしが、本当の殿さまになれる時が来た。
 本当の殿さまになれば、あの美しい奥方は、わしの妻。
 そして、この領地もわしの物。
 フフフフッ、こいつはいい」

 あくる朝、影武者が殿さまに言いました。
「昨日は、見知らぬ白髪の老人が城に忍び込んだとのうわさがあります。用心の為に、今日はわたくしめが殿の代わりを」
 こうして今日一日は、影武者が殿さまの部屋に、殿さまが影武者の部屋で過ごす事にしたのです。

 その日の夕方、昨日のおじいさんがお城へとやって来ました。
「くせ者じゃ!」
  門番がおじいさんを取り押さえようとしましたが、おじいさんはまたもや門番の腕をすり抜けて、そのまま影武者の部屋へとやって来ました。
 おじいさんに気づいた殿さまが、大声で叫ぼうとしました。
「無礼者! 誰か・・・」
 しかし殿さまは、そのままたたみの上に倒れてしまい、家来たちが駆けつけた時には、もう死んでいました。

 その夜、主だった家来たちが緊急の会議を開き、影武者が殿さまになる事が決まりました。
 殿さまが急死したと敵国に知られたら攻め込まれるかもしれないので、急死したのは影武者だという事にしたのです。
  殿さまになる様にと言われた影武者は、ニンマリと笑いました。
「フフフフッ、何もかもうまくいったぞ」

 次の日、殿さまになった影武者は主だった家来たちを広間へ集めると、今までのいくさの手柄に対するほうびだと言って、家来たちに次々とほうびを与えました。
 家来たちの中には影武者が殿さまになったのを良く思わない者がいるので、そんな家来たちの機嫌を取る為です。
 殿さまになった影武者が上機嫌で家来たちにほうびを与えていると、その家来たちの中に、あの死神の使いのおじいさんがちょこんと座っていたのです。
  殿さまになった影武者は後ろに立てかけてあるヤリをつかむと、怖い顔で言いました。
「何ゆえに、また参った!? その方の用は、すんだはずじゃ!」
 家来たちは息をのみ、いっせいに白髪のおじいさんを見つめました。
 おじいさんは、落ち着いた声で言います。
「おそれながら、お前さまをお迎えに。
 実は殿さまのご寿命(じゅみょう)も、影武者と一日違いでございました」
「おのれ、死神め!」
 殿さまになった影武者は、おじいさんに向かってヤリを突き出しました。
 しかし足を滑らせて、殿さまになった影武者は、自分のヤリで自分の心臓を突き刺してしまったのです。
「殿!」
 家来たちが駆け寄ると、殿さまになった影武者は、もう死んでいました。
「まあ一日でも、願いがかなって、よろしゅうございましたな」
 白髪のおじいさんはそう言うと、煙の様に消えてしまいました。

おしまい

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