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福娘童話集 > きょうの百物語 > 1月の百物語 > 大うなぎのたたり 
      1月12日の百物語 
          
          
         
大うなぎのたたり 
東京都の民話 → 東京都情報 
       
      ・日本語 ・日本語&中国語 
       
      ※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先 
      
       
      制作: ぐっすり眠れる癒しの朗読【壽老麻衣】フリーアナウンサーの読み聞かせ 
      
       むかしむかし、江戸(えど→東京都)に、うなぎの大嫌いな左官屋(さかんや)がいました。 
 左官屋というのは、家の壁を塗る職人の事です。 
 この左官屋は仕事に行って、うなぎのかば焼きを出されたりすると、見ただけで気分が悪くなってしまうのです。 
 左官屋仲間からは、 
「もったいない。せっかくのごちそうを」 
と、かげぐちを言われます。 
 ですが左官屋には、どうしてもうなぎを食べられない訳がありました。 
 実は、この左官屋は、以前はうなぎ屋の婿(むこ)だったのです。 
 
 ある日の事、この婿は奥さんの父親である店の主人と一緒に、うなぎの買い出しに出かけました。 
 活きの良いうなぎが手に入り、にこにこしながら家に戻って来た二人は、いけすのかごへうなぎを入れようとして、大変大きなうなぎが二匹いる事に気づきました。 
「おかしいな? さっき買った時は、こんなうなぎはいなかったよな」 
「はい。確かに、こんなでっかいうなぎなんて、いませんでしたよ」 
 婿も不思議に思いながらも、にっこりと笑って言いました。 
「でも、いいじゃないですか。 
 ほら、よく来るお客で、でっかいうなぎが好きな人がいるでしょう。 
 あのお客が来るまで、とっておきましょうよ」 
「そうだな。あの人なら、きっと喜ぶだろう」 
 
 次の日、大きなうなぎの好きな客が、仲間を連れてやって来ました。 
 主人が昨日のうなぎの話をすると、客は大喜びです。 
「では、すぐに焼いてくれ」  
「はい」 
 主人はさっそく、いけすのかごの中から、特別に大きなうなぎを一匹捕まえてきました。 
 ところがどうしたわけか、うなぎの頭に、うまくきりを刺す事が出来ません。 
「おかしいな? もう何十年も、この仕事をやっているのに」
 
 そしてやっと刺したと思ったら、あやまって自分の左手を刺してしまったのです。 
「あいた! すまないが、代わりにやってくれ」 
「はい」 
 そこで料理を代わった婿が、左手でうなぎを押さえつけようとすると、うなぎがくるくると腕に巻き付いて、ものすごい力でしめつけてきます。 
 巻き付かれた腕がしびれて、きりを刺すどころではありません。 
「なるほど、こいつはすごいぞ。とても、わたしの手にはおえない」 
 しかし今さら、客に料理を断るわけにもいきません。 
 困り果てた婿は、思わずうなぎに言いました。 
「これ、うなぎ。 
 いくら暴れても、お前は人に食われるより仕方がないのだ。 
 頼むから、わたしにさかれておくれ。 
 もし言う事を聞いてくれたら、二度とこんな仕事はしないから」 
 すると、どうでしょう。 
 あれほど暴れていたうなぎが、ぴたりと動かなくなったのです。 
「ありがてえ。今のうちだ」 
 婿は急いでうなぎの頭にきりを突き刺し、お腹をさいて料理をしました。 
「はい、お待たせしました」
 
 ところが客たちは、焼きあがった大うなぎを食べたとたんに、気分が悪くなりました。 
「何だ。このかば焼きは!」 
「全く! おれたちを殺そうというのか!」 
「ここへは、二度と来るものか!」 
 客たちは怒って、店を飛び出していきました。 
 
 さて、その日の真夜中。 
 裏の川の方から、 
 きゅっきゅっ。きゅっきゅっ。 
と、おかしな鳴き声がします。 
 不思議に思った婿が起きて見に行くと、鳴き声は、いけすのかごの中から聞こえて来るではありませんか。 
「はて? うなぎの鳴き声にしては大きすぎるが」 
 婿が思い切って、かごのふたを取ってみると、何と何百匹といううなぎがヘビの様にかま首をもたげて、こっちをにらんでいるではありませんか。 
「うぎゃあーっ!」 
 婿はそれっきり、気を失ってしまいました。 
「何だ! どうした!」
 
 その声を聞いてかけつけて来た店の主人も、恐ろしいうなぎの姿を見てびっくりです。 
「う、う、うなぎの化け物だ!」 
 そのとたん、うなぎは次々とかごの中から飛び出して、かま首をもたげたまま川をくだっていったのです。 
 
 やがて気がついた婿は、もう二度とうなぎを見たくないと思いました。 
 それに、殺したうなぎとの約束を思い出すと、じっとしてはいられません。 
 
 次の日の朝、婿はだまって店を飛び出して、親戚の家へ逃げて行きました。 
 こうして一年ばかり過ぎた頃、婿のところへ主人の店の小僧が来て、 
「大旦那さまが、病気で死にそうです。早く帰ってください!」 
と、言うのです。 
 仕方なく店へ行ってみると、店はあいかわらずはんじょうしていました。 
 店をとりしきっているのは、おかみさんと若い男で、自分の旦那が来たというのに、おかみさんは全くの無視です。 
「仕方ないな。あいつを捨てて、だまって飛び出したのだから」 
 婿はあきらめて、主人のところへ行きました。 
 主人は枯れ木の様にやせおとろえた姿で、薄い布団に寝かされていました。 
 しかもそこは納戸(なんど→物置部屋)で、日も当たらず、婿を迎えに来た小僧が一人で看病しているというのです。 
「実の親をこんなところへ押し込むとは、なんてひどい娘だ!」 
 婿はかんかんに腹を立てると、すぐ主人を座敷へ移して医者を呼びました。 
 しかし主人は、もう薬を飲む事も出来ません。 
「どうして、こんな体になったのだ?」 
 小僧にたずねると、小僧は首を横に振りながら言いました。 
「原因はわかりませんが、 あの大うなぎを殺した日から、急に寝込んでしまわれたのです。 
 あれから一言もしゃべる事が出来ず、うなぎみたいに下あごをふくらませて、ぱくぱくと息をするだけです。 
「・・・これはきっと、大うなぎのたたりに違いない」 
 婿はお坊さんに頼んで、殺した大うなぎのために、お経をあげてもらいました。 
 でも、そのかいもなく、主人は間もなく死んでしまいました。 
 
 それから婿は主人の葬式をすませたあと、正式にこの家を出て左官屋になったという事です。 
      おしまい 
         
         
         
        
 
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