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2月25日の百物語
紙すき毛すき
山口県の怖い昔話 → 山口県の情報
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むかしむかし、周防や長門(すうお・ながと→山口県)の農家では、楮(こうぞ)と言う植物で紙をすいて、それを米の代わりに年貢として納めていたそうです。
ある山里(やまざと)に弥兵衛(やへえ)という若い百姓がいて、とても美しい女房と二人で紙をすきながら暮らしていました。
その頃、代官所(だいかんしょ)には勘場(かんば)といわれる所があって、そこに年貢などの検査する役人がいたのですが、その役人が弥兵衛の美しい女房に心を奪われて、毎日の様に弥兵衛の家へ来る様になったのです。
もちろん役人の目当ては弥兵衛の美しい女房でしたが、実は他にもう一つの目的がありました。
その目的とは、
「やれやれ、毎日の様に通ってやっているのに、今日も茶と茶菓子だけか。
他の者なら、わしがこれだけ訪れれば、
『どうぞ、これをお納め下さい』
と、いくらか金を包んで渡してくれるものじゃが。
・・・弥兵衛の礼儀知らずめ、今に見ておれよ」
と、賄賂(わいろ)の要求だったのです。
そんなある日、勘場から弥兵衛に呼び出しがありました。
「はて? 何事だろう」
弥兵衛が勘場に行くと、代官が怖い顔で納めた紙を突き返したのです。
「この頃、お前が納める紙は、どうしようもなく質が悪い。すぐに納めなおせ」
「はて、そんなはずは?」
弥兵衛がその紙を見ると、それは自分が納めた紙とは全く別の、とても質の悪い紙だったのです。
(どうして、こんな事に?)
弥兵衛は首を傾げましたが、ここで言い訳をしても信じてもらえそうにないので、
「わかりました。すぐに代わりを、持って来ます」
と、新しい紙を納めなおしました。
するとまた、弥兵衛は勘場から呼び出されたのです。
「弥兵衛! 前にも増して、質の悪い紙を納めるとは何事だ!」
そう言って突き返されたその紙も、自分が納めた紙ではありませんでした。
そこで弥兵衛は、代官に言いました。
「お代官さま。おそれながら、申し上げます。この紙は、わたしがお納めしました紙ではございません」
「言い訳をするな! 見苦しいぞ!」
「・・・・・・」
こんな事が、それから何度も繰り返されました。
ある日、代官が弥兵衛にたずねました。
「お前は毎度毎度、納めた物と違うと言うが、何か証拠でもあるのか? 証拠でもあれば、わしも何とか出来るのだが」
「証拠ですか」
するとその時、弥兵衛に一つの名案が浮かんだのです。
弥兵衛は自分の髪の毛を切って、それを紙のすみに一本ずつすき込み、自分の紙の目印としたのです。
そしてまた、弥兵衛は自分の物とは違う質の悪い紙を突き返されたので、代官に言いました。
「お代官さま、おそれながら、これはわたしがお納めしました紙ではございません。わたしがお納めしました物には、確かな目印がありますので」
「目印とな?」
「はい、わたしの紙のすみには、わたしの物である確かなあかしに、わたしの髪の毛を短かく切った物を一本ずつすき込んであります。どうか、お調べ下さい」
「わかった。待っておれ」
そこで代官が家来に命じて調べさせると、確かに髪の毛をすき込んでいる紙がありました。
しかもそれは、一番出来が良いと評価された紙だったのです。
この時、代官は、これが全て勘場の役人の仕業であると気づきました。
しかしそれを認めてしまったら、代官所の信用が落ちる事になります。
そこで代官は、口封じにこう言ったのです。
「その方、御上納(ごじょうのう)の紙に、けがらわしい髪の毛をすき込むなど、まことにふとどきな奴じゃ! すぐに引き立てい!」
そして弥兵衛は女房に会う事も許されないまま、次の日の朝早くに首を斬られてしまったのです。
その後、代官が調べてみると、弥兵衛の家に毎日訪れていた役人が、賄賂を出さない弥兵衛をおとしいれようとして、弥兵衛の納めた紙を別の悪い紙とすり替えていた事がわかりました。
そしてその役人は弥兵衛が首を斬られたその日から謎の熱病にかかり、髪の毛をかきむしりながら苦しみ続けて、数日前に死んでいたという事です。
おしまい
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