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5月12日の百物語
抱きつく白骨
岐阜県の民話 → 岐阜県情報
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むかしむかし、美濃の国(みののくに→岐阜県)に、長間佐太(ながまのさた)という武士(ぶし)がいました。
佐太(さた)は将軍を守る為に京の都へ行ったのですが、戦(いくさ)が終わると自分の仕事が嫌になりました。
(人と人が争うとは、何とおろかな事だろう。もはや、二度と武器は手にしたくない)
そして佐太は国へは戻らずに武士の身分を捨てると、草ぶきの小屋を建てて一人で住む事にしたのです。
仕事はというと、元武士が乞食(こじき)をするわけにもいかないので、近くの山でしばを買い求めて、それを町で売って暮らしていました。
しば売りの仕事ではとても貧しい暮らししか出来ませんが、佐太にとっては心休まる日々でした。
「わずかな金で安物の酒を買い、心ゆくまで山をながめ、月を見ては歌をよむ。何とも素晴らしいではないか」
佐太のそんな暮らしを知って、むかしの仲間が金と食べ物を持って来ましたが、
「ほどこしを受ければ、生活は豊かになっても心が貧しくなる」
と、言って、何も受け取ろうとはしませんでした。
そんなある晩の事、佐太が墓地の近くを歩いていたら、いきなり目の前の古い墓が二つに割れて、中からたいまつの様な明かりがもれてきたのです。
佐太はびっくりしましたが、しかし元は凄腕の武士です。
二つに割れた古い墓に近づくと、
「何事だ?」
と、墓の中をのぞいてみました。
すると墓の中にあった白骨(はっこつ→ガイコツ)がムクリと起き上がり、佐太に抱きついてきたのです。
佐太はあわてず、白骨にたずねました。
「拙者(せっしゃに)に、何か用か?」
しかし白骨は黙ったまま、佐太を墓の中へ引きずり込もうとします。
「やめぬか。いかに世捨て人とて、まだ死ぬわけにはいかぬのだ」
佐太が白骨を突き飛ばすと、倒れた白骨はバラバラになってしまいました。
それと同時に墓の中からの明かりが消えて、辺りは再び真っ暗になりました。
「こうも暗くては、何も出来ぬな」
佐太は仕方なく家に帰ると、翌朝になって再び戻ってきました。
すると墓が崩れており、周りに白骨が散らばっていました。
「世捨て人の拙者にまで抱きつくとは、よほどくやしい事があったに違いない。だが拙者に出来る事は、これぐらいだ」
佐太は散らばった白骨を拾い集めて墓に戻すと、安物の酒を墓に供えて手を合わせました。
おしまい
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