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6年生の日本民話

夜泣きのあかり

夜泣きのあかり
長野県の民話

 むかしむかし、信濃の国((しなののくに→長野県))に、満願寺(まんがんじ)という小さな山寺がありました。
 このお寺には夜中のうしみつ時に、かならず山のお堂に明かりをつけにいくという、古くからつたわっているしきたりがありました。
 このお堂の明かりは高いところに灯(とも)されるので、ふもとの村からもよく見えます。
 さて、ある日の事、寺に一人の子どもがつれてこられました。
 この子の父親というのは、長いあいだの浪人(ろうにん)ぐらしで、今ではもう、その日の食べる物にさえこまるようになってしまい、
「どうか、この子をりっぱなお坊(ぼう)さまにしてくだされ」
と、この寺にあずけたのでした。
 和尚(おしょう)は新しい小僧(こぞう)がきてくれたので、とても喜びました。
と、いうのも、ちょうど今までいた小僧(こぞう)が、夜中の明かりをつけにいくのをこわがって、逃げ出(にげだ)した後だったのです。
 和尚(おしょう)はさっそく、子どもの頭をきれいにそって、寺の小僧(こぞう)にしました。
 次の朝、和尚(おしょう)は明かりをつける小さなお堂まで、小僧(こぞう)を案内しました。
 そのお堂というのは、お寺の裏山(うらやま)の奥(おく)の高いところにあって、そこまでいくには、いくつもいくつも暗い岩穴(いわあな)をくぐって、のぼっていかなければなりません。
 和尚(おしょう)でさえ、気味の悪いところです。
 今度きた小僧(こぞう)も、昼でさえ気味のわるいお堂まで、ま夜中に小さなちょうちん一つで行かされたのです。
 木の枝がえりにひっかかっり、岩穴(いわあな)をくぐりぬけるときなどは、コウモリがバタバタと飛び回ります。
 小僧(こぞう)はこわくてこわくて、お堂へ明かりをつけにいくたびに、ふるえて泣き出しました。
 それでも和尚(おしょう)は、
「なにごとも修業(しゅぎょう)じゃ。しんぼうせい」
と、言うのです。
 ところがある晩(ばん)の事、小僧(こぞう)はあんまりこわいので、明かりを灯さずに帰ってきました。
 さあ、その事がわかると和尚(おしょう)はおこって、小僧(こぞう)を木の棒(ぼう)で何度も何度もぶったのです。
 ところが打ちどころが悪くて、小僧(こぞう)はそれっきり死んでしまいました。
 ビックリした和尚(おしょう)は、人に見つからないようにお堂の下に小僧(こぞう)の死体をうめて、
「やれやれ。また小僧(こぞう)が逃げ出(にげだ)してしもうたわ」
と、知らん顔をすることにしたのです。
 ところがその晩(ばん)から、不思議なすすり泣きが、毎晩(まいばん)毎晩(まいばん)、寺の裏山(うらやま)から聞こえてくるようになりました。
 とても悲しそうな声で、それを聞いた寺の人間は、
「いったい、どこから聞こえてくるのじゃろう?」
「あまりにも悲しい声で、あれを聞くと寝(ね)ることができん」
と、話していました。
 ある晩(ばん)、寺男(てらおとこ→雑用係の人)と坊(ぼう)さんたちは、そのすすり泣きを聞いているうちに、いてもたってもいられないようになって、みんなで裏山(うらやま)へでかけたのでした。
 手にちょうちんを持って泣き声のする方へ行くと、やがて木のあいだから、小さな明かりが見えてきました。
「あれは、たしかにお堂の明かりだぞ」
「不思議な事じゃ。小僧(こぞう)がおらんのに」
 みんなは思わず足をはやめて、お堂に近づいていきました。
 山のお堂には、だれもつけに来ないはずなのに、明かりがゆらゆらとゆれていたのです。
 次の朝、その話をきいた和尚(おしょう)は急に怖(こわ)くなって、殺した小僧(こぞう)の供養(くよう)をしました。
 だけれど、すすり泣きは止まらず、毎晩(まいばん)うしみつ時(→およそ、今の午前二時から二時半)になると、お堂にはちゃんと明かりがつくのでした。
 さて、あくる年の事。
 ふもとの村に、一人の(さむらい)がたずねて来ました。
 かわいいわが子を寺にあずけた、あの父親です。
 その日はもう日がくれていたので、ふもとの百姓(ひゃくしょう)の家に一晩(ひとばん)とめてもらいました。
 夜になって、山の上にゆれる明かりを見ると、
「ああ、あの子もりっぱに、つとめをはたしておるわい」
と、喜びました。
 ところがその晩(ばん)のうしみつ時、侍(さむらい)は不思議なすすり泣きに、ふと目がさめました。
 見るとまくらもとに、頭をきれいにそった、かわいいわが子がすわっています。
 名前をよぼうとしましたが、金しばりにあって声がでません。
 声だけでなく、起き上がることも出来ないのです。
 あくる朝、父親は奇妙(きみょう)な話を聞きました。
「この山へいきますと、昼でも山のお堂のほうから、すすり泣きの声が聞こえてくるんですわ。それがまるで、だれかをしとうて泣いておるような、あわれな声でのう」
「もしや!」
 父親はをつかむと、大急ぎで山寺へのぼって行きましたが、二度と山をおりては来ませんでした。
 そしてその夜から、お堂の明かりはつかず、その代わりにまっ暗な満願寺の裏山(うらやま)には、毎晩(まいばん)三つの火の玉が出るようになったという事です。

おしまい

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