福娘童話集 > きょうの日本昔話 福娘童話集 きょうの日本昔話 童話・昔話・おとぎ話の福娘童話集
 


福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 10月の日本昔話 > 切れない紙

10月10日の日本の昔話

切れない紙

切れない紙
彦一(ひこいち)話 → 彦一について

日本語(Japanese)  ・英語(English)日本語(Japanese)&英語(English)

英訳翻訳者 花田れん

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】

♪音声配信(html5)
音声 ☆横島小次郎☆

 むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。

 ある日、彦一と庄屋(しょうや)さんが、茶店の前にさしかかると、
「ワハハハハッ。
 ええか、よく聞けよ。
 向こうは十五人で、こっちはわし一人。
 向こうも強かったが、わしはもっと強かった。
 右に左にバッタバッタときりすて、あっという間にみんなやっつけてしまったわ。
 ワハハハハハハッ。
 うん? 酒がねえな。
 おい、ばばあ! 酒だ、酒持ってこい」
と、ぶしょうひげを生やした身なりの悪い浪人(ろうにん)が、酒をあおりながら得意になってしゃべりまくっています。
 すると、茶店にいた旅人が教えてくれました。
「ああやって、みんなをおどかしてはただの酒を飲み歩いている、たちの悪い浪人ですぜ。強そうなので誰も知らん顔しているが、誰かとっちめてくれねえかね」
 確かにみんな怖がって、浪人と目を合わそうともしません。
「やい、ばばあ! 酒はどうした!
 ・・・なにい、お金だと。
 ぶ、ぶれい者め! このおれさまから、金をとろうとぬかすのか。
 おもしれえ、とれるものならとってみろ!」
 浪人は茶店のおばあさんをつきとばすと、勝手に店の酒を飲みはじめました。
 たまりかねた庄屋さんが何か言おうとした時、それより早く彦一が浪人の前へ出ました。
「もしもし、おさむらいさん」
「なんじゃ、お前は。小僧のくせにひっこんでろ!」
「あんたは、本当にさむらいですか?」
「な、なに? ぶ、ぶ、ぶしにむかって! ぶ、ぶ、ぶ、ぶれいなやつ!」
「そう、『ぶ、ぶ、』言わないでくださいよ。つばが飛んでくるじゃありませんか」
「こ、こ、こやつ、ますますもって、ぶ、ぶ、ぶ、ぶれいな!」
「ほら、また飛んできた。ところで本当に強いんですか? そんな自慢するほど」
「なっ、つ、つ、強いに、決まっているだろう!」
「そんなに強いなら、これが切れますか?」
 彦一はそう言うと、ふところから一枚の紙を取り出して、浪人の目の前に広げました。
 浪人は、ひたいに青すじを立てて怒ります。
「ば、ば、ばかにするな! た、た、たかが紙きれ、一刀のもとだ。そうじゃ、ついでにお前も、まっぷたつにしてやるぞ。かくごはよいか!」
 浪人は酒の入った茶わんを放り投げると、ギラリと刀を抜きました。
「わあーっ、抜いたぞ!」
 見ていた旅人たちが、さあっと、あとずさりしました。
「彦一、ここはわしにまかせて、逃げた方がいいぞ」
 庄屋さんが言いましたが、しかし彦一は落ち着いたものです。
「では、こうしましょう。あなたがこの紙を切ったなら、あなたがここで飲み食いしたお金をわたしたちが払います。でももし切れなかったら、自分で払ってくださいよ」
「おう、そりゃおもしれえ」
「ちゃんと、約束してくれますか」
「くどい! ぶしに二言はないわ!」
 するとそこへ、ちょうど通りかかった立派な武士が二人に声をかけました。
「せっしゃが、立合人になってしんぜる。もし約束をたがえたら、せっしゃが相手になってつかわそう。さあ、両人とも用意をいたせ」
「さあ小僧! 紙をどこへでも置け!」
 浪人はニタニタ笑いながら、刀を高くふり上げました。
 すると彦一は、近くの大きな石の上に紙を広げて言いました。
「さあ、まっぷたつに、どうぞ」
「う、・・・」
 浪人は刀をふり上げたまま、目を白黒させました。
「さあさあ、早くじまんの腕前を見せてください」
「ううむ・・・」
 いくら剣術の名人でも、石の上に広げた紙を切るのは至難の業(しなんのわざ→とても難しいこと)です。
「さあ、遠慮せずにどうぞ」
「ううむ・・・」
 動かない浪人に、立合人の侍が自分の刀に手をかけて言いました。
「どうした、そこの浪人。約束通り、紙を切ってみよ。なにをグズグズしておるか」
「む、むむむ」
「切れぬか。しからば飲み食いした金を払い、ここを立ちされ。でないと、立会人のせっしゃが相手いたす。覚悟はよいか!」
「お、お待ちくだされ。払う、払いますから、ですからどうぞ、ご、ごかんべんを」
 さっきまでのからいばりはどこへやら、浪人は大あわてで金を払って逃げてしまいました。
 侍は彦一の方に向き直ると、彦一に言いました。
「お主、なかなか大した勇気の持ち主だな」
「いえ、それほどでも」
「だが、もしあの浪人が紙を切っていたらどうする?」
「大丈夫です。いくらがんばっても、あの浪人の酒に酔った腕では紙は切れませんよ。もっともあなたなら酒に酔っていても、見事に紙をまっぷたつにするでしょうが」
「なるほど、お主は勇気だけでなく、大した知恵と眼力を持っておる」
 侍をはじめ大勢の見物人は、あらためて彦一に感心しました。

おしまい

前のページへ戻る

    10月10日の豆知識

366日への旅
きょうの記念日
銭湯の日
きょうの誕生花
松茸(まつたけ)
きょうの誕生日・出来事
1975年 森久美子(タレント)
恋の誕生日占い
物事を合理的に考える賢い女の子
なぞなぞ小学校
山に戸がある県は?
あこがれの職業紹介
音楽エンターセラピスト
恋の魔法とおまじない 284
金運アップ
 10月10日の童話・昔話

福娘童話集
きょうの日本昔話
切れない紙
きょうの世界昔話
クマとおばあさんとシャオホン
きょうの日本民話
気のいい山姥
きょうのイソップ童話
鳥刺しとヒバリ
きょうの江戸小話
酔っ払いの落とし物
きょうの百物語
置いてけ掘り

福娘のサイト

http://hukumusume.com

366日への旅
毎日の記念日などを紹介
福娘童話集
日本最大の童話・昔話集
さくら SAKURA
女の子向け職業紹介など
なぞなぞ小学校
小学生向けなぞなぞ