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6月21日の日本民話
命ごいに来たコイ
和歌山県の民話 → 和歌山県情報
・日本語 ・日本語&中国語
むかしむかし、和歌山に大殿さまと呼ばれる殿さまがいました。
とてもらんぼう者の殿さまで、背丈ほどもある長い刀を先を切ったさやにさして歩きまわってたたみを切り傷だらけにしたり、江戸の藩邸にいるときには、
「隣の松平邸の高殿で夕涼みしている女が、自分の屋敷を見て笑っている」
と、言って、鉄砲を撃ったりしたのです。
この事が幕府に知れて、大殿さまは隠居(いんきょ)を命じられました。
ある日の事、この大殿さまがこんな話しを聞きました。
「貴志川(きしがわ)の鯉のふちに住んでいる大鯉はそのふちの主で、村人はだれも手出しをしない」
そこでさっそく、大殿は庄屋(しょうや)を呼び寄せて、
「その鯉を一口食ってみたいから、生け捕るように」
と、言いつけたのです。
びっくりした庄屋は、
「それだけは、ごかんべんを。ふちの主を捕まえたりしたら、きっと恐ろしいたたりがあります」
と、断ったのですが、大殿さまは許しません。
「嫌と申すか?! もし生け捕りに出来なかったら、代わりにお前の腹を切り開くとしよう」
そこで庄屋は仕方なく、生け捕りの準備をはじめました。
そしていよいよふちの主を生け捕りにする前の晩、庄屋の家に美しい娘がやってきて、
「明日、ふちにアミを入れるそうですが、やめてはもらえませんか?」
と、言いました。
それを聞いた庄屋が、
「もちろん、出来る事ならわしも取りやめにしたい。でも明日は大殿さまがここへやってくるので、いまさらやめるわけにはいかんのじゃ」
と、言うと、娘は、
「・・・そうですか、それなら仕方ありません」
と、出された草もちを食べて帰って行ったのです。
さて、翌日の朝。
大殿さまの前でふちにアミを入れていると、とても大きな鯉がかかりました。
さっそく腹を切り開いたところ、中から草もちが出てきたのです。
これを見た庄屋はびっくりして、
「そうか、ゆうべ家へ来たあの娘は、鯉の化身だったのか」
と、みんなに昨日の話をしました。
それを聞いた大殿さまも、さすがに鯉があわれに思えて、
「すまぬことをした。鯉の料理を食うのは、やめにしよう」
と、その鯉を川岸にうめて、その上に木を植えました。
それからその地は、『鯉の森』と呼ばれたそうです。
おしまい
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