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3月25日の日本民話 2
竜になった娘
大分県の民話→ 大分県情報
むかしむかし、佐賀関(さがぜき)と言うところに、早吸日女神社(はやすいひめじんじゃ)という社がありました。
その神社の神主夫婦には、いつまでたっても子どもが授からないので、夫婦は早吸日女の社に願かけをしていました。
(どうか、子どもが授かります様に)
ある日の事、用事で沈堕(ちんだ)の滝近くを通りかかった神主は、一匹の蛇が子どもたちにいじめられているのを見つけました。
「これこれ、生き物をいじめてはいかんぞ」
心の優しい神主は子どもたちに金を与えて、さっそくその蛇を逃がしてやりました。
さて、その年の暮れの事です。
ついに、夫婦に可愛い女の子が生まれました。
女の子は夫婦の愛情を受けて、美しく優しい娘に成長していきましたが、ある時、重い病にかかってしまい、寝たきりになってしまったのです。
そんなある晩の事、薬を持って娘の部屋を訪れた母親は、心臓が止まるぐらいにびっくりしました。
何と部屋の中には恐しい大蛇がまっ赤な舌を出しながら、とぐろを巻いているではありませんか。
あまりの事に口もきけない母親に、大蛇はたちまち娘の姿に戻って言いました。
「私はむかし、沈堕の滝で父上に助けられた竜の化身です。
ご恩返しにと、おそばにおいてもらいましたが、もう帰らねばなりません。
どうか明朝、私を沈堕の滝へお連れ下さい」
翌朝、夫婦は娘と共に、沈堕の滝へと向かいました。
やがて滝のほとりまで来ると、娘はくるりと夫婦の方を向いて、
「長い間、お世語になりました。私はこの滝つぼに入って、竜となります。父上、母上、どうぞお元気で」
と、言い残すと、静かに滝に身を沈めました。
そしてしばらくすると滝の中からゴーゴーと音がして、やがて髪を振り乱した娘が現れて言いました。
「父上、どうか脇差しをお貸し下さい。この滝には悪い主がいるので、その主を殺さねばなりません」
父親が脇差を与えると、娘は再び滝に身を沈めました。
やがて水底の方で大きな音がすると、みるみる水がまっ赤になって滝の中から一匹の竜が姿を見せたのです。
その口には、脇差しがくわえられています。
「おおっ、娘よ。お前は竜になったのか」
夫婦が思わず手を合わせると、竜は大きくうなずいて水の中に消えてしまいました。
それからは毎年一度、竜になった娘が早吸日女神社の宮の池に姿を現すのです。
そしてその日は神社の古井戸で、竜が一夜を明かすと言われています。
また、その井戸をのぞくとたたりがあるというので、その日は誰も近づかないそうです。
おしまい
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