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12月4日の百物語

お金を取りに来た幽霊

お金を取りに来た幽霊

 むかしむかし、ある山里の娘が、町へ働きに行きました。
 とてもよく働く娘で店の人たちにも可愛がられましたが、三年もたたないうちに胸の病(やまい)にかかってしまいました。
「約束の給金(きゅうきん)の他に、これは薬代だよ。はやく病を治して、またきておくれよ」
「はい。きっと病を治しますので、また働かせてください」
 娘は店の主人にお礼を言うと、山里へ帰って行きました。

 さて、山里へ帰った娘の隣の家には、家から離れた山の畑に小屋を作って暮らす男がいました。
 娘とは親しくありませんが、男は娘が町の働きから帰ったといううわさを聞いてやって来ました。
「隣同士のよしみで、三両ほど貸してもらえんだろうか?」
 三両といえば、娘が持っているお金の全てです。
「いいえ。これは薬を買う大事なお金ですから、お貸しする事は出来ません」
 娘は断ったのですが、男は何度断っても毎日毎日やって来ます。
「なあ、必ず返すから、三両貸してくれよ。隣同士だろ」
 こうも毎日毎日やって来られては、病気を治すどころではありません。
 そこで断わり疲れた娘は、仕方なく男に言いました。
「薬代は、月に一両はかかります。三両ではなく二両ならお貸し出来ますが、来月には必ず返してください」
「わかった、必ず返しに来るよ」

 ところが約束の日になっても、男はお金を返しに来ません。
 薬が買えない娘の病は重くなり、とうとう起き上がる事も出来なくなってしまいました。
「はやく、はやく、二両を返してください。病を治して、町のお店で働きたいのです」
 娘は、うわごとを繰り返すようになりました。
 娘の親は可哀想で、見ていられません。
 そこで男が暮らしている山の畑の小屋へ、毎日さいそくに行きました。
 でも男は、
「明日、明日。明日には返すから」
と、一日のばしの返事を繰り返すばかりです。

 そんなある日、男が小屋で晩ご飯を作っていると、あの娘が雨の中をやって来て、力のない声で言いました。
「今日は、どうしても返してください。もう、行かないといけないのです」
 娘の顔色は青ざめ、長い髪は雨でぐしょぬれです。
 男は恐ろしくなって、娘に言いました。
「わ、わかった。いま工面してくるから、待っていてくれ」
 そして男は仲間の小屋をいくつもまわって、借りたお金をかき集めました。
 娘はそのお金をにぎりしめると、黙って小屋から出て行きました。
「ふーっ、恐ろしかった。しかしあの娘、もう起き上がれない体だと聞いておったが、よくここまで来れたな」

 その晩遅く、男のもとに隣の家から使いがやって来ました。
 使いの話を聞いて、男はびっくりです。
「何だって! 娘が死んだ? ・・・それで、いつ?」
 さらに話を聞くと、娘はちょうど男のところにお金を取りに来た時刻に、息を引き取ったという事です。

おしまい

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