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    福娘童話集 > きょうの日本民話 > 8月の日本民話 > 牢の中の娘 
      8月10日の日本民話 
          
          
         
  牢の中の娘 
  東京都の民話 → 東京都情報 
       むかしむかし、一人の娘が両国橋(りょうごくばし)のたもとに倒れていましたが、みんなは通りすぎるばかりで、だれ一人ふりかえろうとしませんでした。 
   娘のかっこうからすると、どうやら旅の巡礼(じゅんれい→聖地・霊場を参拝してまわること)のようです。 
   さて、もう日がくれかかろうとしているころ、四角い荷物をせおった、若い商人の男が通りすぎようとして、娘に気がつき立ちどまりました。 
   娘を見てみると、ひどく疲れた顔をしていますが、ほっそりとした顔立ちで、どことなく品のある娘でした。 
  「ああ、これはひもじゅうて、歩けんのじゃな」 
   その若者は直吉(なおきち)という、貧しい小問物商人(こまものしょうにん→化粧品など、こまごましたもの扱う商人)でした。 
   娘がひもじくて動けないのが一目でわかったのは、自分も小さいときから、ひもじい思いをしてきたからです。 
   直吉は娘をかわいそうに思い、自分の長屋(ながや)へとつれて行きました。 
   そして、少しばかりのこっていたお米でおかゆを作ると、娘に食べさせようとしました。 
   ですが娘は、ひと口おかゆをすすると小さな声で、 
  「ありがとう」 
  と、いって、そのまま死んでしまったのです。 
   直吉は自分の貯金をみんなつかって、なんとか娘の葬式(そうしき)を出してやりました。 
   でもそのおかげで食べるものも買えなくなった直吉は、いく日もいく日も、ひもじい思いをしなければなりませんでした。 
   ところがある日の朝、直吉が起きてみると、ちゃんと朝ごはんのしたくができているのです。 
   そんな事が何日もつづいているうちに、娘の幽霊(ゆうれい)が、米屋や、八百屋(やおや)や、魚屋に現れるといううわさが町に広がりました。 
   そして娘の幽霊がきたあとは、かならず店の品物が少しずつなくなっているというのです。 
   その話は、町中の評判になりました。 
   そしてついに、 
  「米も、野菜も、魚も、みんな直吉の家へ持っていくんじゃ」 
  「きっと直吉が幽霊をつかって、ぬすみをはたらかせているにちがいない」 
  と、いうことになってしまったのです。 
   それでとうとう直吉は役人につかまって、取調べをうけることになりました。 
  「そのほうは、幽霊をつかってぬすみをはたらく、妖術(ようじゅつ)つかいじゃそうな。まこと、それにそういないか?」 
  「いいえ、とんでもございません! なんでこのわたくしに、そのようなおそろしい妖術などがつかえましょう」 
  「だまれ! 町の者が、さようにもうしておるぞ。うせた品々(しなじな)はみな、そちの家へまいっておるとな。世をみだす、にっくきやつじゃ。重いおしおきをうけるがよい」 
   直吉は罰(ばつ)として、何日も何日も、一人だけの暗い牢屋(ろうや)に放り込まれてしまいました。 
   ところがその直吉のとなりには、いつも巡礼(じゅんれい)すがたの美しい娘が、よりそうようにすわっていたという事です。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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