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    福娘童話集 > きょうの日本民話 > 8月の日本民話 > けがの功名 
      8月3日の日本民話 
          
          
         
  けがの功名 
  兵庫県の民話 → 兵庫県情報 
       むかしむかし、ほうろく(→素焼きの土なべ)売りの男がいました。 
   ある日の事、うす暗くなるころまで売り歩きましたが、今日は一つも売れません。 
   疲れてトボトボと帰って来ると、道が下り坂になりかけた所に、一人の侍(さむらい)がねていました。 
   強そうな侍でしたから、男はその前をおそるおそる、しのび足で通り過ぎました。 
   ところが、男がそっとふり返って見ても、侍はそのままで、少しも動かないのです。 
  (こりゃおかしいぞ。ひょっとして、死んでいるのでは?) 
   男はそう思って、また侍のねているそばまでもどってきて、よく見ました。 
   やはり侍は、少しも身動きしません。 
  (これはいよいよ、死んでいるな。だが、確かめてみないことには) 
   男はそばに落ちていた棒きれで、いきなり侍の頭にガツンと一発くらわすと、いちもくさんに逃げました。 
   ですが侍が、男の後を追いかけては来ません。 
   そこでまた戻ってきて、侍のふところに手を入れてみますと、侍の体が石のように冷たいのです。 
  (うん、まちがいない。死んでおる) 
   男は侍のふところに手を入れたとき、指先にふれた侍の紙入れ(かみいれ→さいふ)を取り出して中を見ました。 
   すると、お金がずしりと入っているではありませんか。 
  (おう、これは天のめぐみにちがいない。ありがたや) 
   男は侍の紙入れをいただいて、いちもくさんに坂をかけおりて行きました。 
   そして、また途中で立ちどまり、あたりのようすをうかがいましたが、だれも通りかかる人はいません。 
   そこで男は、またまた動かないでいる侍の所にもどりました。 
   そして侍の大小の刀をはじめ、身につけている羽織(はおり)や、はかまはもちろん、ふんどしだけを残してぜんぶ取ると、いちもくさんに家まで飛んで帰りました。 
  (さあ、おらはもう、ほうろく売りはやめたぞ。明日からは侍じゃ) 
   さて、あくる朝、男はまだ暗いうちから起き出して侍の姿になり、せまい家の中で反り返ったり、せきばらいをしたりしていました。 
   そして明るくなると、町に行ってみました。 
   町の中央には大きな立てふだがあり、大きな字で何やら書いてありました。 
   ほうろく売りの侍は朝から晩まで立ちつくして、その立てふだを見つめていましたが、もともと字というものを知りませんので、いつまでそうしていても読めないのです。 
   そろそろ、人通りも少なくなるころ、 
  「そこのお侍さま、朝からなぜ、そのようにいつまでもお立ちかの」 
  と、一人の老人が、そばに来てたずねました。 
  「うむ、あの字がみごとなもので、つい見とれてしまったのじゃ」 
   ほうろく売りはうまくごまかして、老人から立てふだに書いてあることを聞き出しました。 
   老人の話によると、この町の金持ちの家に毎晩出るバケモノを退治してくれた人を、一人娘のむこにすると書いてあることがわかりました。 
   ほうろく売りは、さっそくその金持ちの家に行って言いました。 
  「わしは、日本中を武者修行しておる。腕試しにと、立てふだを見てまいった」 
   喜んだ金持ちは、ほうろく売りにたいへんごちそうして、二階の広い部屋にとめてくれました。 
   さて、ほうろく売りが生まれて初めての、ふかふかのふとんに寝ころがっていると、広い部屋のかもいに、ヤリ、なぎなた、弓、鉄砲などの武器が、たくさんかけてあるのを見つけました。 
   ほうろく売りには、どれもめずらしい物ばかりです。 
   まず鉄砲をつかみ取って、あちこちいじっていると、 
   ズドン! 
  と、いきなり鉄砲の玉が飛び出してしまいました。 
  「うわっ、しまった!」 
   ほうろく売りがおろおろしていると、この家の番頭(ばんとう)が飛び込んできて言いました。 
  「お侍さま、まことにありがとうございました。たった今、押し入れからバケモノが出てきたので、お侍さまに報告しようとしていたところ、お侍さまがたったいま撃った鉄砲の玉で、バケモノがみごとにしとめられました」 
  「へえ、そうなの?」 
  「ありがとうございます。本当にありがとうございます」 
   こうしてほうろく売りは、めでたく金持ちの一人娘のむこにおさまりました。 
   さて、とてもすご腕の侍が金持ちの家のむこになったという評判(ひょうばん)が、たちまち町に広がりました。 
   それで、遠くの村の百姓(ひゃくしょう)がたずねてきて、 
  「田畑をあらすバケモノが出てこまっているから、お侍さんの力で、なんとか退治してくだせい」 
  と、たのみました。 
   ほうろく売りは、 
  (こわいから、いやだな) 
  と、思いましたが、評判の手前、行かないわけにはいきません。 
   そこで、しぶしぶ承知(しょうち)しました。 
   さて、ほうろく売りの嫁になった金持ちの娘は、このむこがどうにも気に入らなかったので、もう帰って来ないほうがよいと思い、弁当のにぎりめしに毒を入れておきました。 
   さて、バケモノが出るという村に着くと、村人たちはボロボロの小屋にほうろく侍を案内して、日のくれないうちにみんな立ち去りました。 
   真夜中になると、ゴー、ゴーと、気味の悪い音がして、なまぐさい風とともに、おそろしい二つの光が小屋に近づいて来ました。 
   こわくなったほうろく侍は、思わず小屋を飛び出して、そばのカキの木にのぼると、ふんどしで体を木にくくりつけました。 
   そしてそのまま木にしがみついてふるえていると、二つの光を持ったバケモノは、木の下までやって来ました。 
   ほうろく侍がこわごわ下を見ると、バケモノの正体は大きなヘビで、二つの光はその目玉でした。 
   ヘビはおそろしい口を開けて、今にもほうろく侍をひとのみにしようとしています。 
   ほうろく侍は、自分もこれでおしまいだと思い、目をとじて、 
  「なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ」 
  と、となえました。 
   ところがあまりガタガタとふるえたので、ふところに入れていた毒のにぎりめしがころがり出て、ヘビの口の中へ落ちたのです。 
  「ウギャーーー!」 
   毒のにぎりめしをのみこんだヘビは、うめき声を上げながらバタバタとあばれましたが、やがて静かになりました。 
   一晩中、木にしがみついていたほうろく侍が、明るくなってから下を見てみると、大きなヘビが死んでいます。 
   それで木からおりると、死んだヘビの両目に、一本ずつ矢をさしておきました。 
   しばらくしてやって来た村人たちは、両目をみごとに矢でいぬかれて死んでいるヘビを見て、 
  「さすがは、すご腕のお侍さまじゃ!」 
  と、口ぐちに感心してほめたたえました。 
   この評判は、殿さまの耳にも入りました。 
  「そのような見事な腕前を持った者なら、わしの家来(けらい)にいたしたい」 
  と、言って、殿さまはウマに乗った五、六人の家来をさし向けました。 
   ほうろく侍は、ウマなどに乗ったことがないので、一番後からウマのせなかにやっとしがみついて行きました。 
   とちゅう川をわたるときに、家来たちはウマをうまくあやつり、上手に川をわたって行きましたが、ほうろく侍はすぐに川へ落ちてしまいました。 
   それに気がついた家来たちがもどってみると、ほうろく侍は大きなコイを一匹、しっかりとつかんでいました。 
   そして、 
  「けがは、ありませんか?」 
  と、心配して聞く家来たちに、 
  「初めてお目にかかるお殿さまに、なんの手みやげがのうてはまずい。ちょうど手ごろなコイが目についたもので、取りにおりたのじゃ」 
  と、答えましたので、家来たちはすっかり感心しました。 
   こうしてほうろく侍は、殿さまにお目にかかりましたが、 
  「お主はすご腕と聞くが、わしのよりぬきの家来と目の前でたたかい、その剣術を見せてみよ」 
  と、言ったのです。 
   ほうろく侍は、もちろん剣術など知りません。 
  「これは、いたくこまりもうした」 
   なんとか逃げようと、いろいろと言い訳を考えましたが、もう間に合いません。 
   バシッ、ビシッ、ガツン! 
  と、けらいたちにさんざんにうちたたかれました。 
  「たっ、助けてくれー!」 
  と、叫びながら、死にものぐるいになってにげ回っているうちに、ふと目がさめました。 
  「はっ、ここは?」 
        
        実は今までの事は、みんな夢だったのです。 
   仕事の時間だというのに、あんまりいつまでも寝ているものだから、奥さんがほうろく売りの頭をたたいていたのでした。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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