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      9月29日の日本民話 
          
          
         
  キジムナーのしかえし 
  沖縄県の民話 → 沖縄県情報 
       むかしむかし、沖縄本島南部の宇江城(うえぐすく→糸満市)というところに、サメ殿とよばれた漁師(りょうし)がいました。 
   ある夜、海へでて漁(りょう)をしていると、すぐそばで、おなじように魚をとる人がいました。 
   近くの村の人なら、たいてい見おぼえがあるはずなのに、どうも見たことがありません。 
  (はて、誰だろう?) 
   それからは、夜おそくに漁へでるたびに、その男がやってきます。 
   そしてその男が現れると、魚がよくとれるのです。 
  「今夜も魚がたくさんとれたよ。あんたのほうはどうかね?」 
  「わたしだってとれたさ、見てごらん」 
   そのうちに二人は友だちになって、毎日のように一緒に漁をしました。 
   ところがその友だちは、名前をいわないし、顔つきも口のききかたも、ふつうの人たちとちがいます。 
  (もしかしたらあの友だちは、人間ではないかもしれない) 
   ある時、サメ殿はそう考えました。 
   一度考えはじめると、気味が悪くなって、 
  (あれはきっと、ヤナムン(→沖縄の言葉で妖怪のこと)が化けているのだ。このまま長いことつきあっていたら、悪いことがおこるだろう) 
  と、思いました。 
   サメ殿はある夜、漁が終わって友だちと別れたとき、こっそりあとをつけました。 
   すると友だちは、家のあるところを通りぬけて、当山(とうやま)という、さびしい丘へのぼっていきました。 
   そして大きなクワの木に、吸い込まれるように姿を消したのです。 
  「たいへんだ。やっぱり友だちは人間ではねえ。あのクワの木にすむ、キジムナーが化けていたんだ」 
   キジムナーというのはカッパのような妖怪で、古い木にすんでいて、魚とりがうまく、キジムナー火という火をともしたりもするそうです。 
   サメ殿は家にかえると、この事を妻にうちあけていいました。 
  「明日も漁に行くから、お前はその間にほし草だの、ワラだのを持って、クワの木に行き、それに火をつけてクワの木を燃やしてしまうんだ」 
   さて次の夜、サメ殿と友だちとは、いつものように漁にでかけました。 
   魚がとれはじめたとき、 
  「クンクン。どうもおかしい。家のこげるにおいがするよ」 
  と、友だちがいいだしました。 
  「そんなはずはないさ。ここからは何も見えないし、気のせいだろうよ」 
  「いや、たしかににおう。こうしてはいられない」 
   友だちは大いそぎで漁をやめると、すぐに帰って行きました。 
   でもすでに遅く、あの大きなクワの木はすっかり焼けてしまい、まっ黒になっていました。 
   その日から、キジムナーの友だちは姿を消してしまいました。 
   サメ殿は、これであの友だちと別れることが出来たと大喜びです。 
   家をなくしたキジムナーは、すみかになる木をさがして、ずうっと北のほうの、国頭(くにかみ→沖縄本島北部)までいったそうです。 
   さて、それから何年もの月日がたちました。 
   サメ殿はある時、首里(しゅり→昔の沖縄の都)の町へ出かけて、幼なじみの友だちとあいました。 
  「しばらくぶりだ、酒をのんで話そう」 
   二人して酒場へ入り、長い時間のんでは話すうちに、サメ殿はつい気が大きくなり、今までだれにもいわなかった、あのキジムナーの事や、クワの老木を妻に焼かせて追い出したことを、すっかりしゃべったのでした。 
   それを聞いた幼なじみの友だちは、急にこわい顔になって怒り出しました。 
  「あんたは友だちに、そんなひどいしうちをしたか! たとえキジムナーだとしても、あんたに何をしたと言うんだ! あんたはわるい男だ!」 
   見ると、そこにいるのは幼なじみの友だちではなく、あのキジムナーだったのです。 
   キジムナーは持っていた小刀で、サメ殿のゆびとゆびのあいだを切りつけました。 
  「いたい! 何をする」 
   このサメ殿は、全身がサメのようなザラザラのかたいはだをしていて、小刀くらいでは傷つかないのですが、ただ、ゆびとゆびのあいだだけがふつうのはだだったのです。 
   サメ殿は血を流しながら村へかえると、苦しんだあげくに死んでしまいました。 
   沖縄のキジムナーは、ガジュマルやクワの大木をすみかとして、人間にはめったに害をしなかったといいます。 
   それどころか、人間に幸福をもたらしてくれるのです。 
   しかし人間がうらぎったり、ひどいしうちをしたりしたときは、おそろしい仕返しをしました。 
   サメ殿は『鮫殿』と書き、沖縄の言葉では、サバムイと読むそうです。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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