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1月4日の百物語

鬼のうで

鬼の腕
大阪府の民話大阪府情報

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※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 「つれづれ居士」  つれづれ居士

 むかし、大阪のなにわの町に、とても大きなお店がありました。
 お店の旦那(だんな)は一代で大金持ちになった、なにわの町では有名な人です。
 この旦那は、けちでもとても有名でした。
 なにしろ、
『おならを出すのも、もったいない』
と、言うくらいです。

 ある日、旦那は小僧を連れて、用たしに出かけました。
 しばらく行くと旦那は、道ばたで何やら考え始めました。
「今気づいたが、わしは今まで、何とももったいない事をしていた。
 こうやってぞうりを引きずって歩くと、ぞうりが早く減る。
 しかしこうやって、足を真上から、そろりとおろすと、ぞうりが長持する。
 うむ、名案だ」
 そう言って旦那は、抜き足、差し足で、そろりそろりと歩き出したのです。
「さあ、お前もわしの真似をするのだ」
 言われた小僧も仕方なく、旦那の後ろから、抜き足、差し足で、そろりそろりとついていきました。

 また、ある日。
 旦那は、大番頭を呼びつけて言いました。
「この頃、店の者が飯を食いすぎていかん。何とか、飯の減り方を少なく出来んか?」
 このお店には大勢の人が働いているので、一人一人の食べる量を少し減らすだけでも、大変な量のお米を節約する事が出来ます。
「そうですなあ」
 うっかり下手な事を言うと自分の食べるご飯が少なくなるので、大番頭は考えるふりだけをしました。
 すると旦那が名案を思いついて、大番頭に言いました。
「そうじゃ、大工を呼べ。そして店にあるおぜんを、みんな集めるんだ」
「へい」
 店中のおぜんが集められると、旦那に命じられた大工が、おぜんの足を短く切り始めました。

 その夜、みんなの前に出されたおぜんが、とても低くなっています。
 ご飯を持ったり、箸を置いたりする度に、体をくの字に曲げなければなりません。
 おかげでこの日は、みんなご飯を半分しか食べる事が出来ませんでした。
 それを見て、だんなは大喜びです。
「よしよし、うまくいったぞ。これで米の減りが半分になった。何事も、頭の使い方ひとつじゃ」
 それからも旦那のけちぶりはひどくなって行き、ついには、おかずも出さない方法を考えたのです。
 それは天井からひもで大きな塩鮭(しおじゃけ)を一匹ぶら下げておいて、みんなはそれを見ながらおかずなしのご飯を食べるのです。
 さすがに、これには店のみんなも我慢出来ず、
「こんな店で働くのは、もうこりごりだ」
と、みんな店をやめてしまいました。
 しかし旦那は、それを聞いてニッコリです。
「よし、これであとは、わしの飯を切りつめるだけじゃ」

 それから何日かたった、ある日の事。
 店の前に、一人の大男が現れました。
「なんじゃい、物もらいか? お前にめぐんでやる物など、何にもないぞ!」
 旦那が怒鳴りつけると、
「どうか、わしを使ってくださらんか。力なら、いくらでもあるぞ」
と、男は、大きな力こぶを作ってみせました。
 太い腕には針金の様な毛が生えていて、まるで鬼の腕です。
「使ってもええが、お金はやらんし、飯も食わさんぞ。それでもええか?」
「お金なんぞいらん。飯もいらん。その代わりに、一つだけ頼みがある」
「頼みとは?」
「わしのこの腕は、どうも酒飲みでこまる。一日に一合とっくり一本の酒を、この腕にかけてくださるだけでええ」
「そんな事なら、おやすい事じゃ。では、お前の腕をやとう事にしよう」
「ありがとうございます」

 さて、店で働く事になった男の働く事、働く事。
 男はものすごい腕の力で大きなまさかりをブンブンと振り回して、あっという間に、まきを割ってしまいます。
 風呂の水汲みも、風呂桶をそのままかついで水汲みをするので、たったの一回で終わってしまいます。
「これだけ働いて給金は酒一合とは、よい男をやとったわい」
 旦那は上機嫌で、お酒の入ったとっくりを男が寝泊りしている小屋の前に置きました。

 ある夜の事です。
  いつもの様に小屋の前にとっくりを置いた旦那が、ふと思いました。
「あいつ、どうやって酒を、腕に飲ませているのだ?」
 気になった旦那は、戸のすき間から男の様子をじっとのぞき見しました。
 男は腕をさすりながら、まるで自分の子どもに話す様に話しかけます。
「今日も一日、ごくろうじゃったな。ほれほれ、お前の好きな酒じゃ」
 男が腕に酒をチョロチョロとかけてやると、腕に生えた針金の様な毛がピーンと逆立って、腕が見る見るうちに真っ赤になっていきます。
「おう。うれしいか、うれしいか。ほれ、今度はお前の番じゃ」
 男はとっくりを持ち替えると、反対の腕にも酒をかけてやりました。
 そして両腕がまっ赤になると、男は、
「よしよし。明日また、酒を飲ませてやるからな。じゃあ、お休み」
と、言って、寝てしまいました。
 それを見ていた旦那は、とても感心しました。
「なんとも便利な腕じゃ。あんな腕が、あと二、三本あればええがなあ」


 それから何日かたつと、あれほど元気に働いていた男が、
「はーっ」
「ほーっ」
と、言って、休み休みしか、働かない様になってきました。
 無理もありません。
 男は何日も、ご飯を食べていないのですから。
 でも旦那は、そんな事はお構いなしです。
「さあ、働け働け。今までに、何合もの酒代がかかっておると思うんじゃ。働け、働け」

 それから数日後、男はバタンと倒れたきり、そのまま動かなくなってしまいました。
「こら、起きろ! わしのやとった腕をつけたまま、勝手に倒れるな。さあ、はやく起きて働け!」
 しかし男は、ピクリとも動きません。
 男はねむる様に、死んでいたのです。
「うーん、これは困った。
 明日から、働く者がおらんではないか。
 ・・・そうじゃ!
 この男の腕を切り取って、腕に酒を飲ませてみよう」

 その夜、旦那は男の腕を包丁で切り落とすと、こんな歌を歌いながら腕に酒をふりかけました。
♪わしのやとった
♪鬼の腕
♪はよう働け
♪酒のまそ
♪はよう働け
♪酒のまそ
 すると、どうでしょう。
 今まで死んでいた腕のがピーンと毛を逆立てたと思うと、見る見る真っ赤になっていきました。
「しめしめ、うまくいったぞ」
 だんなはさっそく、腕に命令しました。
「鬼の腕よ、わしの肩をもめ」
 すると腕は、上手に肩をもみ始めました。
「こいつはいい。では次に・・・」
 旦那は鬼の腕に、次々と仕事を命令しました。
 すると鬼の腕は、掃除に、ご飯の支度に、帳面付けまで、何でも命令通りに働きました。
「へっへっへっ。こいつは、便利な物を手に入れたわい」
 旦那は、笑いが止まりませんでした。

 さて、鬼の腕は何でも命令通りに働くのに、旦那は鬼の腕に飲ませる酒を、少しずつけちり始めました。
 一日に一合のはずの酒が、二日に一合、三日に一合と減っていき、そのうちに水で薄めた酒を飲ませるようになったのです。

 ある日の事、旦那の姿が見えないと町でうわさになりました。
「この頃、あのけち旦那を見かけませんなあ」
「そうだな。それにあの鬼の腕も、見かけませんなあ」
 そこで町の世話役が、旦那の様子を見に行きました。
「旦那、旦那。近頃姿を見せませんが、どうしました? ・・・旦那? ねえ、旦那? ・・・ひぇーーーーっ!」
 世話役は、部屋の中で倒れている旦那を見つけてびっくり。
 なんと旦那は、うす暗い部屋の中で、鬼の腕に首を絞められて死んでいたのです。
 そしてまくら元には、こんな書きつけがありました。
《酒を飲ませろ! 酒を飲ませろ!》

おしまい

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