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      6月26日の百物語 
          
          
         
黒姫と黒竜 
長野県の民話 → 長野県の情報 
 
・日本語 ・日本語&中国語 
       
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      投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読 
      【大人もぐっすり眠れる朗読】心あたたまる龍の昔話集 元NHKフリーアナ 
       
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      投稿者 「天乃悠の朗読アート」   天乃悠の朗読アート 
       
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      投稿者 「あーる」  【眠れる朗読】 
       
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      制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】 
      
       むかしむかし、信濃の国(しなのくに→長野県)に黒姫(くろひめ)という美しい姫がいました。 
 その噂は各国に知れ渡り、遠い国からも姫を嫁に貰いたいという申し出が後を絶ちませんでした。 
 
 ある秋の事、そんな噂を聞いた山奥の大沼池(おおぬまいけ)に住む黒竜(こくりゅう)が、この美しい姫を一度見たいと思って蝶(ちょう)に化けると、殿さまと一緒に散歩をしている黒姫の所へ飛んで来て、姫のまわりをひらひらと舞ったのです。 
「まあ きれいだこと」 
 姫はうれしそうに、黒竜が化けた蝶に微笑みました。 
 その姫の微笑みに心を奪われた黒竜は姫の事が忘れられなくなり、何日も悩んだあげく、若侍に化けて姫のいる城を訪れました。 
 どの若者よりも立派な若侍に、すっかり感心した殿さまが身元をたずねると、 
「わたくしは、志賀山(しがやま)の大沼池の黒竜です。姫を一目見て以来、姫の事がどうしても忘れられませぬ。どうか、姫をわたしに下さい」 
と、黒竜は正直に正体を明かしたのです。 
「いくら立派でも、人間でないものに姫はやれん」 
 殿さまに断わられましたが、黒竜はどうしても姫の事があきらめきれずに、それからも毎日、城へ通う様になりました。 
 そして百日目が過ぎた時、黒竜は殿さまに言いました。 
「もし姫をいただけるのなら、今後、あらゆる災いからこの城を守りましょう。ですが、どうしても駄目だというのなら、わたしにも考えがあります。・・・わたしは大水で、城と村々を押し流す事も出来るのですよ」 
 これには、殿さまも困りました。 
 そこで殿さまは、黒竜にこんな約束をしたのです。 
「明日、その人間の姿のままで、わしの馬に遅れずに城のまわりを二十周まわれたら姫をやろう」 
「本当ですか! ありがとうございます!」 
 黒竜が喜んで帰ると、殿さまはすぐに家来に命じて、城のまわりに刀を何本も埋め込ませたのです。 
 
 次の日、殿さまは城で一番足が速い馬にまたがると、やって来た若侍姿の黒竜に言いました。 
「黒竜、よいか。少しでも遅れたら、姫をあきらめるのだぞ」 
 そして殿さまは馬にひとムチ当てて、勢いよく駆け出しました。 
 黒竜もすぐさま、殿さまの後を追いました。 
 やがて家来が刀を仕込んだ場所に来ると、殿さまはうまく馬に飛び越えさせて、無事にそのまま駆け出しました。 
 しかしそんな事とは知らない黒竜は、仕込んだ刀の罠に引っかかり、体中を切り裂いてしまったのです。 
「ぬぬっ、計ったなぁ!」 
 全身血だらけになった黒竜は怒りで竜の姿を現すと、竜の姿のまま馬に乗った殿さまを追いかけました。 
 そして血だらけになりながらも殿さまを追いかけ続け、そのまま殿さまに遅れる事なく、城の周りを二十周回りきったのです。 
 黒竜は息も絶え絶えになりながらも、殿さまに言いました。 
「さあ、約束です。姫を下さい」 
 しかし殿さまは、腰の刀を抜くと、 
「わしは、人間の姿のままでと言ったはずだ。お前の様な化け物に、姫はやれぬ!」 
と、黒竜に斬りかかったのです。 
 黒竜はその一撃を何とかかわすと、 
「よくも裏切ったな! 見ておれ!」 
と、叫びながら、空高く飛んで行くと、真っ黒な雲を空一面に張り巡らせて、激しい雨をゴーゴーと降らせたのです。 
 その雨は一向にやむ気配がなく、四日目になると川からあふれ出た水で、村々は今にも流されんばかりとなりました。 
 これを見た黒姫は、殿さまが止めるのも聞かずに外へ走り出すと、大雨が降る空に向って叫びました。 
「黒竜よ! わたしはあなたのもとへ行きます! ですから、どうか嵐を鎮めて下さい!」 
 すると、どうでしょう。 
 あれほど激しかった大雨がぴたりとやんで、空から一筋の黒雲が矢の様に下りて来ました。 
 そしてその黒雲が黒姫の体を包み込んだとたん、黒雲は黒姫の姿と一緒に消えてしまったのです。 
 
 その後、殿さまがどんなに探しても、黒姫は二度と見つかりませんでした。 
 しかしそれ以来、村には何一つ災いが起らなくなったそうです。 
      おしまい 
         
         
         
        
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