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9月16日の日本民話
弁天島とアブ
石川県の民話 → 石川県情報
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むかしむかし、柳(やなぎ)という男の人が釣り友だちの若者を連れて、海へ釣りに行きました。
「柳さん、今日の潮なら、このあたりがいいでしょう」
「そうかい。まかせるよ」
若者は釣りに詳しいので、柳はその場所で釣り糸をたらしました。
その途端、サバが食いついてくるのです。
「おっ、いい当たりだ!」
柳と釣り友だちはどんどんサバを釣りあげて、とうとう小舟がいっぱいになりました。
「いやー、こんなに面白い釣りは初めてだ」
ふと見ると釣りに疲れたのか、釣り友だちの若者はグーグーといびきをかいて寝ています。
「おい、こんなところで寝ると、かぜを、・・・おや?」
柳が釣り友だちの若者を起こしてやろうとすると、何と若者の鼻の穴から三匹のアブが、ブーン、ブーン、ブーンと飛び出して来たのです。
そしてそのアブはまた若者の鼻に入り、すぐにブーン、ブーン、ブーンと飛び出して行きました。
(はて? こんな海の上に、どうしてアブがいるのだろう?)
柳が首をかしげると、若者が目を覚ましました。
「ああ、失礼しました。いつの間にか、眠ってしまいました。しかし、変な夢を見ましたよ」
「変な夢? どんな夢かね?」
「はい。村の丸堂から、三体の仏さまがアブになって飛んで来られたのです」
「ほう、三匹のアブねえ・・・」
柳は少し考えると、若者に言いました。
「なあ、その夢をわたしに売ってくれないか? 夢の代金として、今日のサバは全部お前にあげるから」
「夢をですか? そりゃ、構いませんけど」
若者はサバと交換で、自分の見た夢を売ることにしました。
さて、夢を買った柳は浜辺に戻ると、そのまま村の丸堂と呼ばれているお堂へ走って行きました。
そしてゆっくりと、お堂のまわりを歩きました。
「どこだ? アブは、どこだ? ・・・おおっ、あれだな」
お堂の壁の小さな割れ目から、三匹のアブが出たり入ったりしていました。
(よしよし、夢の通りだ)
柳は頭にかぶっていた笠(かさ)で、三匹のアブをパッと捕まえました。
そして大急ぎで屋敷に帰って座敷の戸を閉めると、アブを捕まえている笠をのけました。
「あっ!」
柳は、びっくりです。
何と出てきたのはアブではなく、輝くほど美しい三体の仏の像だったからです。
よく見るとそれは、阿弥陀(あみだ)、弁天(べんてん)、毘沙門(びしゃもんてん)でした。
「これは、大した物だぞ」
柳は美しい三体の仏像を全部自分の家に置くのは申しわけないと思い、阿弥陀は村の勝安寺(しょうあんじ)というお寺に納める事にしました。
弁天は、小さな島に納めました。
そのために島は、弁天島と呼ばれるようになりました。
そしてもう一つの毘沙門の像は、今も柳さんの屋敷の宝物として祭ってあるそうです。
おしまい
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