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11月30日の日本の昔話
もうはんぶん
むかし、江戸(→東京都)の町に、やたいの酒うりがいました。
ひや酒(→つめたいお酒)や、かん酒(→あたためたお酒)をうるのです。
「いまにも雨がふりだしそうで、いやな夜だなあ。まとまったお金があれば、ちゃんとした店でしょうばいができるのに」
酒うりの男がぼやいていると、
「ちょっと、のませてくれんかね」
しらがのめだつ、おじいさんがやってきました。
みなりがだらしなく、きものがうすよごれています。
「ちゃわんにはんぶんほど、のませてもらいたい」
「へい」
酒うりが、いわれたとおりに酒をだすと、おじいさんは、ググッと、ひといきにのんで、
「もうはんぶん、もらおう」
からのちゃわんをつきだしました。
そしてそれを、何度もくりかえしたのに、ぜんぜんよっぱらいません。
ときどきかんがえこんでは、ためいきをついたりしています。
「はんぶんずつでなく、とっくりごとのんではいかがです」
酒うりがすすめても、
「そういうきぶんにはなれんのだよ。もうはんぶん」
と、からのちゃわんをつきだすのです。
(まったく、ケチなおきゃくだ)
そのうちに、おじいさんは、
「いくらだい?」
小ぜにでかんじょうをすませて、フラッと、かえっていきました。
酒うりがふとみると、やたいのはしに、しまもようのどうまき(→さいふ)が目にとまりました。
(いまのじいさんが、小ぜにをだすときにとりだして、わすれていったんだな)
酒うりがどうまきを手にすると、ズッシリしています。
ひもをはずしてのぞくと、たくさんの小判(こばん)が入っていました。
(おおっ! これだけあれば、店の一けんくらい、わけなくかりられるぞ)
酒うりがニンマリしていると、さっきのおじいさんが顔色をかえて、かけもどってきました。
「ここに! ここに、しまのどうまきをわすれていったのだが!」
「どうまき? はて? そんなもの、かげもかたちもありませんでしたよ。よっぱらって、思いちがいをしているんでしょう」
「いや、たしかにここにおいたまま、うっかりしたのだ。たのむ、かえしてくれ。むすめをうってこしらえたお金なんだ。あれがないと、身なげをせねばならん」
「なに! かえしてくれだと! ひとぎきのわるいことをいわないでもらいたいね。とんでもないいいがかりだ。さ、かえった、かえった。しょうばいのじゃまだよ」
酒うりは、とうとう、おじいさんをおいかえしてしまいました。
そのばん、おじいさんはちかくの川に身なげをして、死んでしまいました。
一方、酒うりのほうは、ねんがんの店をかまえて、だんなにおさまりました。
しょうばいははんじょうするし、お嫁さんをもらえば、すぐに赤んぼうにもめぐまれるし、いうことありません。
「ありがてえ、ありがてえ。ばんばんざいだ」
ところが、赤んぼうは、うまれたときから歯がはえていて、顔中がしわだらけです。
ちっとも、かわいくありません。
おかみさんでさえ、きみわるくて、せわをしたがらないほどでした。
うばをやとっても、
「おひまをいただきます」
三日と、いてくれません。
あるばん、だんなはそのわけをしらべようと、真夜中(まよなか)までおきていました。
すると、スヤスヤねむっていた赤んぼうが、むっくりおきだして、あたりをみまわしてから、行灯(あんどん)のあぶらをおいしそうになめはじめたのです。
あまりのことに、だんなはこしがぬけてしまいました。
すると、赤んぼうはヒヒッとわらって、
「もうはんぶん」
ちゃわんをつきだすかっこうをしました。
その顔は、あのときのおじいさんと、うりふたつです。
赤んぼうは、おじいさんのうまれかわりだったのです。
だんなは、その夜から熱をだして、とうとう死んでしまいました。
おしまい
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