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4月25日の日本の昔話

ネコの恩返し

ネコの恩返し

 むかしむかし、ひどい貧乏寺(びんぼうでら)に和尚(おしょう→詳細)さんが一人ですんでいました。
 一匹の三毛ネコを、自分の子どものようにかわいがっていましたが、そのネコもすっかり年をとりました。
 ある日、和尚さんが村人の法事(ほうじ)に出かけ、夜おそく寺にもどってきたら、寺の中でなにやらさわがしい音がします。
(どうしたんだろう?)
 和尚さんがふしぎに思って、こっそり中をのぞくと、でっかくなった三毛ネコが和尚さんの衣(ころも)を着て、袈裟(けさ)までかけて、楽しそうにおどっているではありませんか。
 しかも、三毛ネコのまわりには、たくさんのネコが集まって、首をふったり、足でひょうしをとったりしています。
(こりゃ、おどろいた!)
 和尚さんは、しばらく見ていましたが、
(ネコを長い間かっていると、化けネコになるというが、うちの三毛ネコも、とうとう化けだしたか)
と、こわくなってきました。
 そこで、せきばらいを一つしてから戸を開けました。
「三毛や、今、もどったよ」
 そのとたん、ネコたちはビックリして外へとびだし、三毛ネコも、あわててもとのネコにもどると、和尚さんのそばへかけよってきて、あまえるように、
「ニャーオ」
と、鳴きました。
 和尚さんはそれでも知らん顔で、さっさと奥の部屋に行き、ピシャリとふすまをしめます。
 いつもとちがう和尚さんの態度にガッカリして、三毛ネコはしばらく鳴いていましたが、やがて静かになりました。
 さて、夜もふけたころ、ふとんのえりをひっぱりながら、
「和尚さん、和尚さん」
と、呼ぶ者があります。
 ハッとしてとび起きると、まくらもとに三毛ネコが座っています。
「今、わしを呼んだのはおまえか?」
「はい、わたしです」
 ネコが口をきいたので、和尚さんはおどろいて立ちあがると、三毛ネコが言いました。
「長い間、かわいがってもらいましたが、わたしも、とうとう化けるような年になりました。化けるところを和尚さんに見つかってしまっては、もうここにいることはできません。朝になればおいとまします」
 いくら化けるようになっても、自分の子どものようにかわいがってきたネコです。
 和尚さんは、三毛ネコと別れるのがつらくなり、
「よかったら、いつまでもここにいておくれ」
「ありがとうございます。でも、いつかは別れなくてはなりません」
 三毛ネコは、ていねいに頭をさげると、部屋を出ていきました。
 和尚さんは、もう一度横になりましたが、三毛ネコのことを思うと、眠ることができません。
(そういえば、おかしなことがあった。衣のおいてある場所が変わったり、袈裟(けさ)がまるまっていたり。それも三毛ネコのせいであったか)
 和尚さんは、夜が明けるのを待って起きだし、白いご飯をかまいっぱいたいて、ご飯の上にかつおぶしをたっぷりかけてやりました。
「今日で、わしのつくった飯を食うのも最後だ。しっかり食べていってくれ」
 三毛ネコはご飯を食べおわると、ジッと、和尚さんの顔を見つめていましたが、いきなり外へとび出し、門のところでもう一度ふりむき、「ニャアー」と鳴きました。
 三毛ネコがいなくなると、寺の中は急に静かです。
 和尚さんは、さみしくて、なにをする気にもなれません。
 ただボンヤリと、日を過ごすようになりました。
 それから十日ばかりたったころ、村の長者(ちょうじゃ→詳細)の家でおじいさんがなくなり、葬式(そうしき)をだすことになりました。
 ところが、いざ葬式を始めようとすると大雨が降ってきて、しかたなく日を変え、べつの寺の和尚さんをよんできて、葬式を始めようとすると、またまた嵐になるやら雷が鳴るやら、どうにも野辺(のべ→火葬場や埋葬場)の送りができません。
 そこでまた、日を変えることになったのですが、仏さま(この場合、死んだ長者)を五日も六日も置いておくわけにはいかず、長者や親戚(しんせき)の人たちもあせるばかりです。
 明日こそと思っていたら、ひにくなことに、その日の夜から雨になりました。
 さてその晩、和尚さんがいろりのそばにションボリ座っていると、三毛ネコがやってきました。
「おう、よくもどってきた」
 和尚さんがよろこんんで、だきあげようとしたら、三毛ネコが言いました。
「しばらくでした。わたしが今夜、顔を出したのは、長い間かわいがってもらったおれいをしたいからです。この間、長者の家のおじいさんがなくなったのは、和尚さんもごぞんじでしょう。ところが、いまだに葬式(そうしき)が出せなくてこまっています。そこで、和尚さんが出かけていって、『わしに葬式をさせてくれ』と言ってください。必ず葬式を出せるようにしますから」
「でも、わしみたいな貧乏寺の和尚が行ってもな」
「大丈夫。わたしにまかせてください」
 言ったかと思うと、三毛ネコはさっさと寺を出ていきました。
 朝になっても雨はやまず、ますます大ぶりです。
 和尚さんは、どうしようかとまよいましたが、かわいがっていた三毛ネコの言うことだと考えなおして、衣をつけ、袈裟(けさ)をかけて長者の屋敷(やしき)に出かけました。
 長者の屋敷では、今日も葬式が出せずに困っています。
 和尚さんは胸をはって、
「わしに葬式をさせてくれ。必ず天気にしてみせるから」
 長者や親戚(しんせき)の人たちは、りっぱな坊さんが来ても葬式を出せないのに、こんな貧乏寺の和尚さんになにができるかと思いましたが、とにかく早く葬式をすませたくて、
「まあ、そんならやってみてくれ」
と、言いました。
「それじゃ、始めるから」
 和尚さんは、お棺(かん)の前に座って、ゆっくりお経を読みはじめました。
 すると、どうでしょう。
 雨が小ぶりになってきたかと思うと、たちまち太陽が顔をのぞかせてきました。
 長者は喜んで、すぐに村人たちに知らせます。
 大勢の人たちがやってきて、待ちに待った葬式が始まり、無事に野辺(のべ)の送りがすみました。
 長者はえらく喜んで、和尚さんにたっぷりお礼をはずみました。
 そればかりか、和尚さんの評判が遠くまで伝わり、大きな葬式には必ず和尚さんをよぶようになったのです。
 おかげで、いまにもつぶれそうだった貧乏寺は、りっぱな寺へたてなおし、弟子や小僧もふえて、和尚さんは一生しあわせにくらしたということです。

おしまい

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